GLFC・JETROアジア経済研究所訪問セミナーを開催しました

冬期休業に入った12月26日、この期間を利用して、アジア経済研究所訪問セミナーを格別の配慮を賜り開催をいたしました。当日は中3から高2の生徒、関心をもつ教職員合わせて25名が参集しました。セミナーではまず、研究企画部の青山由紀子さんより、アジア経済研究所の紹介をいただき、山田紀彦研究員より「なぜ、独裁は維持されているのか」をテーマとした講演、学術情報センターの図書館情報課司書(ライブラリアン)、河合早由里さんより、「アジア経済研究所図書館とライブラリアンの仕事」と題してご講演をいただきました。
以下、セミナーの様子を紹介します。

◆アジア経済研究所とは 研究企画部・青山由紀子さん
アジア経済研究所は開発途上国を対象とした研究機関としては世界最大規模を誇ります。1958年に財団法人として設立され、1960年に当時の通産省の特殊法人となり、さらに1998年に日本貿易振興会(JETRO)と合併し、2003年に経済産業省の下の独立行政法人となりました。当初は東京の市ヶ谷にありましたが、1999年にこの幕張の地に移転しました。アジア経済研究所が大事にしているのは、以下のようなことです。政策の基盤となる研究、世界水準の研究、対外情報発信の強化、世界の新興国・開発途上国地域に関する研究の拠点であること。そして、地域研究と開発研究の2つをテーマとして、現在110名を超える研究者(博士65名)が所属します。使用言語は25か国に及び、各自が分野別の専門(政治・経済・社会学)や国別の専門(東アジア・東南アジア・アフリカ等)などを持ち、それぞれの研究者の発意に基づき、日本の他、アジア、アフリカなどの開発途上国の政府、産業界、市民社会の関心等を踏まえて、毎年200近くの研究プロジェクトが実施されています。研究は、現地調査→分析→成果の創出の流れで進みます。その資金は国の予算である交付金や競争的資金である科研費が充てられます。昨年度、一昨年に渋谷幕張中高でセミナーを開催した牧野百恵研究員が、その著書「ジェンダー格差」でサントリー文学賞を獲得しました。アジア経済研究所の研究成果は、出版物や書籍、ウェブやソーシャルメディア、イベント等を通じて社会全体に還元されています。

◆講演「なぜ、独裁体制は維持されるのか?」 山田紀彦研究員(地域研究センター/ラオス地域研究)
研究員の山田紀彦と申します。ラオスという国をベースに「独裁体制」の研究をしています。世界には独裁体制の国がたくさんあります。まず2つ質問をします。1) 独裁体制と聞いて思い浮かぶイメージは? 2) 独裁体制と聞いて浮かぶ国は? (中略) いろいろな意見が出ましたね。独裁体制とは民主主義体制の相反で、統治者が自由かつ競争選挙で選ばれない体制を言います。
(1)現在の独裁体制の特徴
独裁体制には個人や集団(例えば政党)支配など、いろいろな形があります。本講義ではそれらを含めて「独裁者」と表現します。2023年現在、世界全体の人口比で71%(51億人)が独裁体制に住んでいます。それでは、なぜ独裁が維持されているのでしょうか。1991年のソ連の崩壊から、独裁体制の数は減り民主主義体制が増えました。ただ、そのどちらでもない中間体制も同時に増加しました。過去の独裁はエジブトのファラオやローマ皇帝のように個人に権力が集中し、その権力を誇示しましたが、現代では複数政党制による競争的選挙を実施し、一見すると民主主義体制か独裁体制かわからない「民主主義を装う」独裁体制が増えつつあります。それは独裁者が権力を維持するために絶対に負けない選挙制度を作り上げ、「競争的(選挙)権威主義体制」と呼ばれています。一方、複数政党制も競争的選挙もない独裁体制は「閉鎖的権威主義体制」に分類されます。

(2)独裁者の生存戦略
独裁者が長くその地位に留まるためには2つの課題に対応する必要があります。1つが体制内外のエリートや国民からの脅威を緩和すること、2つめがエリートや国民から支持を獲得することです。ここには3つの主要なアクターが存在します。独裁者と体制的エリート、そして国民です。独裁者が脅威を緩和し支持を獲得する手段として、「抑圧と暴力」(恐怖政治)と「取り込み」(忠誠と引き換えの便益提供)の2つがあります。「抑圧と暴力」だけでは不十分かつコストがかかり、独裁者にはエリートや国民の選好が見えないことでの疑心暗鬼、不満分子によるクーデター(大衆蜂起)、軍隊や警察に依存するリスクが生じます。そこで独裁者は、選挙・議会・政党・司法などの民主的制度を利用して、脅威を緩和して反対派の排除を謀ります。暴力や抑圧的手段を活用するよりもコストやリスクが低いからです。
(3)独裁における選挙
現在ではほぼすべての独裁体制で選挙が行われています。選挙には多額の費用がかかりますし、選挙に負ける不確実性(リスク)もあります。これを解消するには不正や操作が必要になります。暴力や脅迫、買収のような露骨な方法はかえって国民の不平を高めるので、メディアコントロールや公共事業などの行政資源の投入、司法による野党攻撃、選挙制度の操作(選挙区操作)などが行われます。こうして選挙に勝利することは、独裁者の強靭性や組織力を誇示でき、体制に正当性を付与することができるのです。そして体制への支持度だけでなくエリートの動員力や忠誠心、国民の選好や不満についての情報収集も可能となります。さらに選挙を通じて体制内エリートにポストを供与することで権力を分有し、また野党/反対勢力の一部にもポストを与えて取り込んだり、分断を図ったりします。とはいえ選挙で得られる効能はトレードオフの関係にあり、独裁者はどの効能を享受すべきかジレンマに直面します。選挙の競争性を高めることで得られる効能と、競争性を狭めることで得られる効能があり、独裁者は選択を迫られます。その判断を誤ると体制が不安定になる可能性があります。そしてハードな抑圧と暴力は最後のオプションであり、現代では外部からは分かりにくいメディアコントロールなどのソフトな抑圧が行われています。実際にラオスでの事例を少し説明します。(省略)
(4)まとめ
最後にまとめとして、以下の5つを提示します。
・過去の独裁体制と現在の独裁体制の特徴は大きく異なる
・抑圧・暴力はいつでも行使できるが最後のオプション
・現代の独裁体制は民主制度の活用を通じて脅威を緩和し支持を獲得する
・独裁者はジレンマに直面し、どの効能を重視するか選択する
・抑圧の手段も洗練され、相手が見えない

◆アジア経済研究所とライブリアンの仕事 学術情報センター・ライブラリアン 河合早由里さん
アジア経済研究所図書館は、アジアだけではなく、中東、アフリカ、ラテンアメリカなどの開発途上国の資料を中心に78万冊以上を所蔵しております。私たちはサブジェクトライブラリアンとして、図書館情報学や地域資料収集の専門性を身に付けています。図書館は1959年に開設されました。私たちライブラリアンは、「三現主義」の考え方で働いています。「三現主義」とは、現地語を用いて/現地資料にあたり/現地に滞在して研究を行うという考え方を言います。所蔵資料の75%は開発途上国の資料でその中には統計資料や新聞・雑誌も含まれます。そして一般にも公開をしています。それではこれから実際に図書館内の見学に出発します。

こうして図書館の見学を終えて、再び会場の会議室に戻り解散となりました。長時間のセミナーになりましたが、参加をした生徒たちは知的好奇心をもってしっかりと対応しておりました。今回のセミナーを企画してくださったアジア経済研究所の関係の皆様に心より御礼を申し上げます。