海外大学で学ぶことを考えるためのセミナー

7月21日(金)、MIT (マサチューセッツ工科大学)の卒業生組織である日本MIT会(MIT Club of Japan)より、4名の皆さんをお招きして、GLFCセミナーの一環として「海外で学ぶ事を考えるためのセミナー」を開催しました。当日は、海外の大学、もしくは大学院で将来学んでみたいと考えている生徒及び教員、約50名が参集しました。また田村校長も本セミナーを聴講されました。以下、セミナーの概要を紹介いたします。

◆「キャリアにおける海外大学の可能性」―マサチューセッツ工科大学(MIT)の説明と進学のメリット

〇キャリアにおける大学進学の考え方

講 師:田中辰治さん((MIT Club of Japan, 本校17期)

東京大学工学部からMITに進学、両校で航空宇宙工学の修士号を獲得。その後ドイツのマックス・プランツ研究所でリサーチインターンを経験し、IHIでのジェットエンジン・ガスタービンエンジンの研究開発やボストンコンサルティンググループでのコンサルティング業務を経て、現在は航空業界を中心とすモビリティ全体の脱炭素実現のためにNABLA Mobilityを設立し、代表取締役兼CEOとして活躍中。

キャリア構築について、私が中高生のころに知りたかった3つの内容について、皆さんにお話しをしたいと思います。まず最初は、「キャリアの運転ハンドルは自分で握るもの」ということ。5年後、10年後どうあっていたいのか、そのために何をするのか、自分で考えそこに向かっていくための行動を自ら主体的にとるべきです。1歩先を行く先輩など、誰に助力を願うのかも大切な判断です。二つ目は「キャリア構成は中高生から既に始まっている」ということ。人の評価では、その人を知る他人からの評判は非常に重要な要素を占めます。例えば、自分が仕事で信頼できる人間であるかどうかは、過去に一緒に働いた人のコメントが強く影響しますし、その評判には過去の事例も含まれます。ですので、若いうちから自分の振る舞いや他人への接し方を丁寧に据えた方が良いです。そして三つ目、「好機は平等には訪れない」ということ。学校生活では機会は比較的平等に与えられますが、社会においては、情報やチャンスは能力のある人や興味を強く示す人などに集まってきます。一方で、興味ある課題については本気で取り組み、情報も一時情報を自分で取りに行く姿勢を示すなど、自分の頑張り次第で機会が増やせる可能性があります。雑誌記事が雑誌記事になる時点で既に最前線の議論では無くなるため、本気と示すのは難しいでしょう。MITのような世界トップクラスの大学とは、キャリア展望を具体化し、自分で舵を取り続ける能力を養える場所です。さらに、新しい課題設定や解決手法の種にも溢れています。学位をもらうためというより、その後の人生をより能動的に設計するための通過地点として捉えてもらいたいです。

〇MIT(Massachusetts Institute of Technology)の概要説明と進学のメリット(1)

講 師:田中奈菜子さん(MIT Club of Japan, Vice President)

MITで修士取得後、精密機器メーカー勤務を経て、ドイツ航空宇宙センターで働きながら独シュツットガルト大学で博士(工学)を取得。その後、三菱総合研究所において、宇宙の新興産業に係る政策・技術動向調査及び政策策定・実証支援に従事。2020年に自動運転スタートアップのTIER IVに入社。政府との対話に加え、各種大型国プロの立ち上げや海外案件の事業開発並びに実証実験責任者等を担当。人生の目標は新しい技術を用いた新興産業で世界を変え続けること。

私からはMIT(Massachusetts Institute of Technology)という大学の特徴と学生生活に関する紹介をいたします。MITは工科大学でありますが、実はメディアやアートなど幅広い学問を学ぶことができる大学です。総合的な、人生を豊かにする種が集まっている大学だと知ってもらいたいです。昨年は世界全体から33,000人が志願し、1,300人が合格しました。女性43%男性57%の割合になります。成績がよいだけでなく、いかに差別化してアピールできるかが大事になってきます。MITのマスコットはビーバーです。この動物はものを作り上げて世界を変えるというMITのミッションを体現しています。MITのモットーは「理論と実践を合わせて世界を変える」ということ。入学のためには、今まで何をやって周りにどんな影響を与えてきたのか、が問われます。MITらしさを表す学生の行動として「Hacking」を紹介します。これは「人がやらないようなことをして人を驚かせる」という言葉で、例えば、試験期間に大学内にベッドが置かれ誰でも仮眠できる「SAVE POINT」というスポットが現れたりします。学生が勉強だけじゃない側面で人を驚かせる大学がMITなのです。そして、MITは宿題の量が非常に多いです。そして、その宿題は一人で解くことはほぼありません。初めからチームでしか解けない課題で、そのチームも自分で集める必要があります。だから、コミュニケーションスキルがとても大事になります。もっと言うと、授業料も研究室の籍も、自分から動いて獲得するものです。待っていても、誰かが希望を聞いて研究室を割り振ってくれたりはしません。教授に「あなたの研究論文のここに感銘を受けた。自分ならもっとこうアプローチできる」などと、自己アピールをして入れてもらうのです。MITは仲間や先生がとてつもなく優秀。その中でやっていくには暗記や即解のスキルでなく、考えて伝えるスキルがより大事になってきます。さらにMITではCross-functionalな動きが可能ですから、学部・学科を超えて自分の道を切り開くための力を身につけることができます。学生生活は辛さが9割で楽しさが1割。留学は自分のキャリアを実現する手段でしかおりません、その手段を取るか取らないかでその後の人生は大きく変わると思います。

〇MIT(Massachusetts Institute of Technology)の概要説明と進学のメリット(2)

講 師:ロメインさわかさん(MIT Club of Japan, President)

日本MIT会19代目会長。副会長の職を経て、2022年に日本MIT会の111年の歴史において初の女性会長に就任。MITのUndergraduate生物学部卒業。現在、Kekst CNCという戦略的コミュニケーション・コンサルタンシーにてコンサルタントとして、グローバル企業のコーポレートやクライシス・コミュニケーションなど様々な案件をサポートや政府機関の論調分析なども担当。戦略的コミュニケーション以外にも、ラジオパーソナリティ、声優、歌手、イベント・プラニング、司会、翻訳・通訳、医療系マーケティングリサーチなど多方面での経験を有する。メキシコ育ちで、日本語・英語・スペイン語のトライリンガル。


私からはMITに学部入学することのメリットをお話しします。私は日本人ですがメキシコ育ちで、アメリカンスクールからMITの生物学部を卒業しました。MITは多様な経験ができる場所で、授業だけでなくスポーツやサークル活動も盛んです。MITはスポーツの授業をとらないと卒業できないことになっています。自分はアカペラ、サッカー、ボランティア、日本人学部生の会の立ち上げ・運営、他大学の授業の聴講などを行いました。大学ごとに得意分野がそれぞれあるので、文系が充実しているハーバード大学で国際貢献に関する勉強もしました。MISTI(MIT International Science and Technology Initiatives)という、学生を海外に派遣する制度があり、ヨーロッパ、アフリカ、中南米、東南アジアなど25ヶ国へのインターンシップが可能です。自分は今までMITからは派遣の実績がなかった中国のユネスコにてインターンシップを行おうと思い、自分で交渉して実現させました。このようにまずやってみるという姿勢は大切です。前例がないから駄目なわけではないのです。ユニークな学校文化があることは田中奈菜子さんの話にもでてきた通りです。学資援助は留学生に対しても手厚く、57%の学生が何らかの援助を受け、38%は授業料が無料、85%はローンなく卒業しています。その他にも、多数の国から留学生がやってくるので、なじめるように大学がお膳立てをしてくれます。レベルに合わない授業は評価の記録をなしにすることも可能ですし、メンターシップ、カウンセリングサービスも充実しています。入学前に留学生用のオリエンテーションもあります。

MITの同窓会について。卒業生はBrass Ratという卒業クラスの記念リングを所持することができます。卒業生同士がばったり会うきっかけにもなるとても便利なツールです。日本の同窓会である日本MIT会の創設は1911年に遡ります。交流イベントも各種実施し、SNS上で情報発信もしています。今年はMITから初めて女性が卒業してから150周年の節目の年で、イベントも予定しています。日本MIT会のウェブサイトに「目指せMIT」という日本MIT会が出版した書籍にちなんだ名前のページがあるので、そちらを見てもらえば、アドミッション関連の情報が掲載されています。ホームページ、SNS等是非ご覧ください。

〇MIT入試に関する情報

講 師:マニ・エスワー(Eswar Mani)さん(MIT教育評議会、日本地域面接官Regional Chair )

クレディ・スイス・ファースト・ボストン東京支店の投資銀行部門に勤務後、同社のロンドン支店に転勤し、企業M&A及び資金調達を数兆円単位でグローバルに手掛けた。環境分野の企業を支援するための知識を得るため、MIT Sloan School of Managementに入学。MBAを取得し、アブダビ国家ファンド傘下のクリーンエネルギー会社のマスダールに入社し、クリーンテクノロジのベンチャー企業に550億円相当を調達し、出資。日本に帰国後、再生可能エネルギー大手のサンエジソンに入社し、アジア全般をカバーするファイナンスを担当。その後独立しコンサルティング会社と投資会社を立ち上げ、機関投資家の再エネ投資及びESG/SDGアドバイスを提供する一方、世界各国のsustainable start upに投資をしている。コロナ禍以降は、専業主夫となり、料理、子育て、エンゼル投資と上場企業のESG投資と多岐にわたる仕事をこなしている。

まず、MITのカルチャーとは、教育、研究、イノベーションを通じてより良い世界を作るという共通の目的を持つことです。出願はOnlineで申請する。My MIT Accountを作成し、高校の成績、英語スコア、エッセイ、学業以外の活動、推薦状2通を必要とする。英語ネイティブではない方は英語スコアの提出が薦められている。(IELT試験はMITで好まれています)。エッセイとはいわゆる自己紹介文のことで、説得力のある自己アピールをしなければなりません。MIT卒業生が志願者に連絡をし、入試面接を行います。入試の期限ですが、出願方法は2種類あります。1つがEA(Early Application)期限は2023.11.1で、12月中旬に合格通知が来ます。2つ目がRA(Regular Application)期限は2024.1.5で、3.14発表です。費用は、授業料、学費、寮費を合わせて1年でおよそ1千万円です。面接官(MIT Educational Council)は、60~90分で人物像を探るものです。大切なことは学生のカラーと大学のポリシーがマッチしているかどうか。自己紹介や質問の準備が必要です。面接官は入学申請及びエッセイを読んでいないので、また自己アピールをする機会になります。全てを兼ねそろえた優秀な学生が世界中から受験します。また、海外の学生が学部から入学する場合、学費援助の関係で留学生の受け入れは定員の10%と決まっているため、非常に狭き門になります。2023年は国際生徒の入学比率は2%未満でした。それでも受けなければ絶対受かることはないのだから、まずは挑戦してみよう。


この後、質疑応答が行われ、多数の質問が参加した生徒から行われました。一つ一つの質問に丁寧に対応いただきました。講師の皆さんのとてもアグレッシブなお話しに、参加生徒たちは引き込まれ、将来の海外大学への留学のための心構えをつくることが出来ました。今回のセミナーの開催を快諾いただきました、日本MIT会、及び御多忙の中、来校頂きました4名の講師の皆様に心より感謝を申し上げます。