2月17日(土)、GLFCセミナーの一環として、メディカルガイダンス2024を開催しました。本年度は、郡山みな美さん(千葉労災病院・23期生)、櫻井一貴さん(松戸市総合医療センター・32期生)、浅野祐介さん(千葉大学医学部5年生・34期生)の3名を講師お招きして、「渋幕から医師を目指し、そして今」と題したテーマをベースに、医師として働くことの意義や、現在にいたるキャリアについて講演をいただきました。さらに講演後に、3名をパネラーとして、パネルディスカッションを実施しました。以下、セミナーの講演とパネルディスカッションの内容を報告いたします。
◇浅野祐介さん(千葉大学医学部医学科5年生・34期)
私が医師を志したきっかけは、勤務医だった父親の影響で、人の命を救う仕事がかっこよく思えたからです。将来も千葉に住みたかったことや、大学の特色が自分に合っていたという理由で、中学の時から千葉大を志望していました。千葉大学のカリキュラムは、1年~2年時に西千葉キャンパスで普遍教育(英語、第二外国語、数学など)や基礎医学(解剖学、生理学、組織学、生理学)という「ヒトの正常機能」を学びます。3年後期~4年前期の臨床医学では循環器、呼吸器、泌尿器など「病気」について学びます。CBT(マークセンス方式)とOSCE(実技試験・問診、採血、聴診、感染対策)という試験に合格したら、白衣式で白衣を授与され、4年後期からは病院に行って臨床実習に参加できるようになります。実習は6年時の9月まで続きます。しかし臨床実習の間は、医師としての治療や処方は何もできません。国家試験に合格しましたら、初期研修医として2年間修行します。中高生のみなさんからは「医学部って忙しいの?」と思われがちです。そのイメージのために、医学部を敬遠するかもしれません。確かに授業は多く大変ですが、実際に手を動かす授業が多いので、座学に比べれば大変ではありません。3年後期は、1週間に1個ずつテストがあり、試験勉強を計画的に進める必要があります。でも友達と一緒に勉強すればよいので、大学受験と比べれば精神的には負担は重たくありません。意外に、バイトや部活をする余裕もあります。
医学部の臨床医学で、最も重要な基礎医学の科目に解剖学があります。実際に、ご遺体を隅々まで解剖させていただきます。病態を把握するには基礎医学が重要ですが、特に重要だったと感じたのはこの解剖学でした。臨床実習では自分の行きたい科だけではなく、全ての診療科の実習に参加します。実際に患者さんに問診することもあるので、医師の仕事を肌で感じることができます。
私は将来、今のところ救急救命医を希望していますが、これから初期研修を通して考えが変わるかも知れません。医学部は将来の職業が入学時から既に決定されている特殊な学部ですが、医師になりたいという気持ちがあればなんとかなります。医師として働く未来がとても楽しみです。
◇櫻井一貴さん(松戸総合医療センター小児科専攻医 信州大学医学部卒・31期生)
私は、現在は松戸市立総合医療センターで小児科専攻医(後期研修医)として勤務しています。医学部卒業直後の2年間は、初期研修医期間と呼ばれており、1~2か月ごとに各診療科をローテ―ションする仕組みになっています。月に4~6日の当直業務があり、泊まり込みで働きます。特に、夜間・休日は人手不足なので、研修医が主戦力になります。小児病棟ではクリスマスの日には、サンタに仮装して、入院患者を喜ばせたりもしました。初期研修の後は、さらに専攻医プログラムを3年間経験しなければなりませんので、専門医になれるのは早くても30歳です。自分はこれから得意な分野を磨いて、最終的には地域の診療医として患者さんの役に立ちたいと思っています。
医師の良い点は、働き口が必ずどこかにあることや、やりがいが大きいことです。悪い点は、長期休暇を取りづらいことと、訴訟のリスクが常にあるところです。26歳の医師が過労自殺したニュースを最近耳にしましたが、そのような過労問題に直面する人も身近にいます。一部の医師は苦しい働き方をしている人もいるということも、知っておいてもらいたいと思います。今年の4月から医師の働き方改革が始まり、残業の上限がこれまで以上に意識されますが、医師1人当たりの患者数が減らない限りは、そんなに変わらないのではと個人的に危惧しています。医者に限った話ではないですが、そういう人の割合が多いのは確かです。
暗い話だけではなく、明るい話もしましょう。小児科のいい点は、数十年先まで未来のある子供と関われることや、特定の臓器に限定せず診られること、常に全力で向き合えるところです。みなさんが一番気にしている受験は確かに突破しなければならない壁かもしれませんが、高校時点での学力よりも、コミュニケーション能力や医師としての志や、倫理観のほうが大切だと思います。皆さんのご活躍を期待しています。
◇郡山みな美さん(千葉労災病院・耳鼻咽喉科頭頚部外科医 産業医科大学卒 23期生)
私は鹿児島の出身なのですが、渋谷幕張中学受験のために千葉に移住しました。中高時代はキラキラした毎日を過ごし、そして北九州市で医学部生活。再び千葉に戻って初期研修を開始して今に至ります。明確な理由を持たずに医学部を志望していた為、医学部なら全国どこでもいいと思っていました。たまたま指定校推薦枠があり、面接の練習になると考え、産業医科大学について下調べをしないまま受験、そして合格しました。合格の喜びもつかの間、指定校推薦というものが「合格したら絶対入学が必要」であると理解していなかったため、手続きの日に初めて大学に行き、その事実を知り、さら田舎すぎる立地にショックを受けました。学力的に入学を決めたものの、もっと下調べしておけばよかったと思いました。 最近、北九州市は、「住みたい田舎No.1」だそうです。確かに、子育てや家族暮らしにとっては良い場所ですが、当時18歳だった自分にはその良さが理解できなかったのかもしれません。医学部の受験には「地域枠」など、学費などが奨学金で賄える反面、卒業後の専攻や勤務に制約のある制度があります。30代半ばまでの人生が決まるので、勉強だけなく、下調べをして受験することも肝要です。
産業医大は、産業医を育成する大学で、全国の企業に勤務する産業医を増やすという責務があります。そのため、後期研修後は働く場所や地域に制限があり、進路を大学から認めてもらえなければ2500万円の学費を一括返金しなければなりません。幸い私は千葉県で臨床医として働く道を得ることが出来ました。(入学時の規約に「全国の労災病院であれば後期研修後勤務できるという内容の記載があり、かつ千葉労災病院耳鼻咽喉科の派遣元である千葉大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科教室に許可を得ることが出来たからです)制限のない他の大学に進学した仲間をうらやましいと思ったこともあります。でも、どんな進路を選んでも道が途絶えることはないし、自分の歩いた道が良かったのかどうかはもっと先にならないと分からないものです。
産業医とは、職場で労働者の健康管理を行う医師のことです。主な仕事は職場巡視(職場環境に問題がないか)、健康診断の事後措置、安全衛生委員会の開催、健康教育(予防医学)、過重労働面談などです。あまりなじみのない職種かもしれませんが、とても重要です。4月からは、産業医として、実際に企業に所属して働くことになります。また新たな環境で頑張りたいと思っています。
最後に、私の専門である耳鼻科・頭頚部外科とは、脳と目を除く首から上の全ての臓器を扱う、幅広い診療科です。内科と外科の両方の要素があり、老若男女多様な疾患を扱います。普段は外来患者を一週間に約100人、さらに外科医として、週2、3日は、手術室に入って手術をしています。手術内容が多岐にわたり1-2時間で終わる手術から中には24時間近くかかる手術もあります。(上司の話だと2日間かかる手術も過去にはあったようです)長い手術が終わったらみんなでラーメンを食べに行ったりするなど、運動部みたいなノリで、「みんなでやっていくぞー!」という環境が私には合っていてとても楽しく思っています。また、千葉大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科教室では、皆さんの先輩である渋幕初期の卒業生から最近の卒業生まで臨床・研究両面において活躍しています。
■パネルディスカッション 「渋幕から医師を目指し、そして今」
講演に続いて、3名の講師の皆さんをパネラーとして、井上進路部長をファシリテーターとして、パネルディスカッションを行いました。一部を抜粋して紹介します。(敬称略)
①中高時代にやっておけばよかった思ったことはありますか?
櫻 井 → 論文を英語で読むので、英語をもっとしっかり勉強しておけばよかったと思います」
②医師になる上で乗り越えなくてはいけない壁は何だと思いますか?
櫻 井→ 世の中にはいろんな人がいますが、どんな人に対しても、適当にあしらわず、真剣に対応する必要があります。ひとりで抱え込まず、周りの人に相談することが大事です。
③ワークライフバランスはいかがですか?
郡 山→ 家庭を持ったら、自分の働き方を見直さないといけない。そのため、仕事は無限に降ってきますが、どれを選ぶか考えなければなりません。
④医師として人の命に責任を持つのに、どのような覚悟を持ちましたか?
浅 野→ 救急科をまわったときに、人の死に直面することは辛かったです。でも、そういうところを見て成長しないと、医師になれない。責任をもてるよう、もっと勉強を頑張らなくては、と思っています。
郡 山→ やるしかない、自分しかできないという積み重ねが、人の命に責任を持つ覚悟につながると思います。
⑤なぜ今の専門科を選びましたか?
櫻 井→ 小児科は、保護者さんは心配して、たくさん質問がありますが、一つ一つ解決することで、とても喜んでもらえます。大変さよりもやりがいの方が勝ったから選びました。
⑥医師としての仕事で、男女の違いはありますか?
郡 山→ 仕事の質に男女の違いはありませんが、「男の先生の方がいい」など、患者さんから要求されることはあります。患者さんとの相性での男性・女性の違いはあると思います。
➆医学教育(医療)のグローバル化について考えがあれば教えていただけますか?
浅 野→ 千葉大は自分の一個下の学年から留学が必須になったそうです。海外に行く環境はかなり整って
いると思います。
⑧ロボットやAI医療が今後どのように発展すると思われますか?そして医師の仕事のスタイルも変わりますか?
櫻 井→ ロボットの良いところは、腹を大きく切る開腹手術に代わって、傷が小さく済むところ。健康診断のスクリーニングは、ヒトでも見落としてしまうので、そういうのはAIに任せても良いのではと思います
浅 野→ 人間の感情として、人間に診てもらいたいという感情がヒトにある以上、医者はロボットやAIにすぐにとって代わられることはない仕事だと思います。
郡 山→ 患者との会話を聞き取って、医者の代わりにカルテを書いてくれるAIがあればよいと思います。
(パソコンに向かってばかりで患者の顔を見ない医者がいなくなる)」
◆ こうして3時間近くに及ぶセミナーになりましたが、講師の皆さんのお話しは、医師を目指す生徒たちにとって、リアリ
ティーに満ちた内容で、あっという間の時間に感じたのではないでしょうか。セミナー終了後も生徒が多く残り、個別の質問をしていました。本校生徒の為にセミナーで講演をいただいた、3名の皆様に心より感謝を申し上げます。皆様のこれからの益々のご活躍を祈念申し上げます。