GLFCセミナー「社会課題に対するAI活用」

11月25日(金)、株式会社JDSCより大杉慎平さんをお招きして、GLFCセミナー「社会課題に対するAI活動」を開催いたしました。JDSCは日本の産業をアップグレードすることを使命とした東大発のAI企業です。大杉さんは現在、同社の共同創業者フェローで、東京大学学際情報学府特任研究員などもお務めになられています。以下セミナーの内容を紹介します。

◆ AIを皆さんはどう考えますか
まずは人工知能(以下AI)について事例を紹介します。(自動運転で動く自動車/レストランの予約での人間との会話/建築における最適な設計やデザインの選択、といったAI技術が社会実装された映像を題材に)AIはこのように、かつて話題となった将棋やチェスで人に勝つといった、人と切り離して存在するものではなく、人と一体化した「人間ぽい」ものに進化しているのです。こうした進化を知ったことが、会社をつくる契機となりました。
次に機械学習の仕組みを簡単に、クイズを交えて紹介します。下の事例を考えてください。これに「しぶまく」を入力したらどうなるか考えてみてください。・・・・そうです「なし」です。「しぶまく」には魚の名前が入っていません。同じように、サッカーのドイツ戦見た人はどのくらいいますか。それでは次のコスタリカとの試合の結果を予想してみて下さい。そして、皆さんは結果を予想するのに、「日本は南米のチームに弱い」とか、いろいろな情報を脳に対して、ニューロンという脳神経細胞を通して送り込みます。この脳の構造をニューラルネットと呼びます。そしてAIもこれと同じ構造でできています。例として「5」という数字をAIが認識するプロセスを紹介します。今は、このくらいのレベルのAIのプログラミングは簡単にできます。もしプログラミングができなくても作れます。
それでは、皆さんに質問をします。「文明の夜明けから2003年までの間に人類が生み出した情報を、今や[ ]で生み出している(Erick Schmidt 2010)」の空欄に入る数字(期間)を考えてください。・・・・答えは[2日]です。これも2010年のデータですから今では数時間かもしれません。そして、AIは皆さんと同じように学ぶことが必要なのですが、それに必要な膨大な情報が、今では容易く手に入る時代になりました。AIは自動で学習をしていく力もあります。そんな便利なAIですが、限界があります。1つは、「判断はできても説明をすることができない」こと、そしてもう1つ、「自発的に目標を設定できない」ことです。AIを何に使うかは我々(人間)が決めなくてはいけません。

◆ AIでできることは何でしょうか
 それではAIにできることを考えてみましょう。日本の課題に労働人口の減少というテーマがあります。
そこでAIがやってくれるとありがたいものを挙げてみます。➀ 不足する労動力の代替、② 非効率の排除、③ 人ができないことを代わりにやる、➃ 膨大な情報の計算、などが考えられます。
 ここで、私が開発した社会実装の例を紹介します。(映像が流れる)これは宅配の会社の例ですが、配送先が不在で再配達することによる産業効率の低下を抑えるため、電力会社と提携してネットに情報が繋がるスマートメーターという電力計を設置し、AIを利用して配送の担当者に一番効率のよい配送の順番を伝達して、再配達率を下げるシステムを開発しました。これによって不在配送率は2%にまで下がり、2000億程度がコストダウンできると試算されています。他にも福祉の分野で、お年寄りが要介護になってしまう要因であるフレイル(筋力や活力の低下した状態)について、AIを利用して健康状態をチェックし、その要因の発見と防止に関するプログラムを作成するシステムの開発や、電力会社との太陽光発電のシステム、予備校の試験問題を最適化するシステム、大型スーパーの在庫管理などのシステムなどの開発も扱っています。
 それではここで皆さんに2つ、考えてもらいたいことがあります。
1.AIで解決したい問題はありますか? 
2.将来AIに期待していることは? 
(生徒からの回答)
➀ 安定した世界平和
② モノの価格の最適化システム
③ 会社の仕事の配分の仕組み
④ 給与の不平等 
⑤ 渋滞の解消  など

(講評は省略)いろいろな意見が出ました。いろいろな考え方はありますが、大切なのは「この問題を解決したい」という気持ちだと思います。

◆ 私のキャリア
最後に私のキャリアを参考に皆さんに紹介します。中学高校時代は剣道部で、部活動中心の学校生活で、将来のことを考えることも、そうした機会もありませんでした。東京大学の理科Ⅱ類に進学して、上位10番に入ると医学部医学科に進学できるので、それを目指しましたが、残念ながら13番で断念、その次に人気のあった建築学科に進みました。でもどうしても建築学に未来の可能性を感じることができなくて、大学卒業後、大学院には行かずに1年間「プー」生活をしました。でも、その期間にユニクロなどでアルバイトをしたりする中で、自分のやりたいことが見えてきて、翌年、情報学の修士課程に進みました。そして、この時期に会社をつくりたいと思うようになりました。
大学院時代は、アメリカでスタンフォード大学のSTEM系のプログラムやTeach for Americaという教育格差を是正するNPOに参加しました。自分でもTeach for JapanというNPOを日本で立ち上げました。修了後は、外資系のコンサルティング企業のマッキンゼーアンドカンパニーに入社しました。その後、大学院博士課程にも在籍しました。そして2018年に東京大学のベンチャーキャピタルの支援を受け、(株)日本データサイエンス研究所(現JDSC)を共同で設立(起業)して、2021年に上場(東証グロース市場)、現在に至ります。
そして、私が起業をしようと思ったきっかけは、シュンペーターという経済学者の「イノベーション理論」という経済理論を学んだことにあります。皆さんも多分学んだかもしれませんが、シュンペーターはアダム・スミスやマーシャルといった古典派と呼ばれる「均衡」を最適配分と考えた学派から、「イノベーション(創造的破壊)」を繰り返すことが企業の成長に必要であると説いた人物です。この言葉に触発されて、社会貢献のための「新しい問題解決のアプローチ」を行ってみたいと考えたからでした。
それでは全体へのお話はここまでにして、後は皆さんからの質問を受けたいと思います。

※ この後、生徒より様々な質問が大杉さんに投げかけられました。
・プログラミングの経験はどのくらいでしたか。
・学資や企業の資金をどのように調達されましたか。
・AIエンジニアになる方法を教えてください。
・これまでに出会った優秀な人の共通点を教えてください。
・ペーパークリップ問題(AIの暴走による人類の滅亡の危機)をどう考えますか。
・設立されたTeach for JapanというNPOの活動内容を教えてください。

 それぞれの質問に大杉さんから丁寧に回答をいただきました。 さらに全体での質疑の時間の後も、個別に質問をしたい生徒が順番待ちの列をつくりました。

 ご多忙の中、本校生徒のために時間を作っていただき、とても興味深い内容のセミナーを実施いただいた、大杉慎平さんに心より感謝を申し上げます。セミナーの内容は本校生徒に強いインパクトをいただきました。今後の大杉さんの益々のご活躍を祈念申し上げます。