「自調自考」を考える 第329号

六月、水無月、七月、文月、八月、葉月。この時期、大暑 土潤いて溽し暑し。旧暦八月一日を八朔と云い、そのころ採れはじめる早稲の穂を知人へ贈る習慣があった。季節は移り変わり、ようやく日常が戻って来るように観ずる。新しい日常である。
 新しい感染症COVID-19によって、
世界中が混乱し、学校も四月五月六月と乗り越えて、ようやく七月の通常登校になった。遠隔授業の経験によって、生徒諸君も又先生方も今迄以上にアクティブラーニングの意味する重要な処を深く理解した。この経験をこれからの学校生活及び日常の家庭生活にも充分活かしピンチをチャンスに代えて充実した毎日になるよう努めていこう。
 OECD(経済協力開発機構)が提唱するEducation2030の〝Agency”
(当事者意識)の実行の時が来たと考えている。
 感染症、古来より疫病というが、我国では、疫病の流行は人々に「死」と直面することによる感情の吐露として二つの歌の傾向を生んだ。一つは人と人との出会いと別れの歌=熱烈な恋や別離の嘆き。もう一つは生きている時間をゆったりと自然と共に=花鳥風月を詠み込む歌に。そして、この二つの傾向は日本の一三〇〇年にわたる和歌の基本的伝統となっている。(上野誠・万葉学者)
 大伴書持が兄家持に送った、自然を眺め心の平和を望む気持を詠み込んだ万葉集の歌は後者の例として有名である。

 橘は常花にもが霍公鳥
  住むと来鳴かば聞かぬ日無けむ

 疫病の苦難の中で、素晴らしい文化が出来ていたことを忘れないでいたい。
 ところで、夏の季語に「秋隣」がある。夏の到来は次に秋が来ることを感じさせる。夏と共に始まる夏休みも周到な事前計画と綿密丁寧な実施がないと、あっと云う間に秋になってしまう。今年の夏休みは例年とは違って大変短い(例年の半分)。一層充分な計画と実行が必要となろう。
 国連の人間開発指数に関わって、人間の幸福度の計測について「良い暮らしの要素を決めるのはあなた自身です」という表現がある。その通りで、良い夏休みを過ごせる要素を決めるのは君自身であることをもう一回云っておく。
 「習慣は第二の自然である」(モンテーニュ)。「努力によって得られる習慣だけが善である」(カント)。そして「若いうちは何かになりたいという夢を持つのもいい。しかし、もっと大切なのは、いかに生きるかである。日々の行いを選び積み重ねることが、人生の行方を定める」(串田孫一、詩人哲学者/山の随筆が有名)。
 日本最古の歴史・神話書『古事記』(七一二年成立)の畢生の研究書『古事記伝』(四十四巻)を完成した後、本居宣長は当時の国学の第一人者として全国の弟子達からの要望に応えて『宇比山踏』を書著す。初学者への学問の手引書で、学問をすることを山登りに譬えて、あの有名な荀子の言葉を引いている。「功在不舎」。学問で成果をあげ功績を残すには、山登りのように一歩一歩ふみしめ厭きずに続けることであると。行動経済学の知見による「ナッジ(nudge)」によると、何よりも「長寿」には「勤勉性」が重要で子供のころから慎重で勤勉である人が長寿であるという。
 健康な生活習慣を身につけ勤勉なライフスタイルが身につく夏休みになる努力をしてほしい。アリストテレス由来の「社会の共通善」である「自粛」を心掛けながら。
 自調自考生、ピンチをチャンスにする夏休みを。