10月6日(土)「自調自考」を考える 第312号

 九月、長月。白露鶺鴒鳴く次候(七十二候)。この時期に本校では「槐祭」を迎えた。一学期のスポーツフェスティバルと対になる学園最大の文化祭である。
 今年のテーマは「百花繚乱」。
 主催者は「このテーマは臨場感があり、オリジナリティあふれる企画を、グローバルな視点を基に計画的に制作することで、渋幕生も含め誰もが楽しめる文化祭にすること」を方向性とし、それを簡潔に伝えるために設定されたのだと説明している。多様な個性を、多様な花の持つ多様な花言葉に準えて表現したテーマ「百花繚乱」。大変面白く興味深い。
 そして二日間、壱万三千余人の来校者を迎え、例年通り「渋幕らしい」創造的表現学習共同活動が、多才多能のパーフォーマンスを生み出した。
 グローバル化の進展のなかで、先行きが全く不透明な二十一世紀。
若者達のこうした多様な活動の中から「次の時代が求めている思想を手に入れているのか」を示せたのか、一番気になるところである。(国境を越え、世界を飛び廻る遊牧民の思想が見付かったか)。グローバル化による人の移動で単一の価値観で歴史を見返すことがいよいよ困難となるなか、大きな座標軸で歴史を捉え、多角的に人類の営みを理解しなければ未来は見通せないと考えている若者達がどのように行動しているか。
 ここでアリストテレスの『弁論術』からの一節、「大きくかけ離れているものの中にさえ、類似を見てとるのが、物事を的確につかむ人の本領なのである」を紹介しよう。
 時代を覆う重苦しい閉塞感を若者達はどう受け止め、どう突き抜け感を演出したか、どのように「青春」を感じているか。  そして「槐祭」を終え、学園は清秋を迎えている。
 十月、神無月、秋分 時の花いやめづらしもかくしこそ  
 見し明らめめ秋立つごとに 大伴宿禰家持 万葉集(四四八五)
 次々と秋の七草が咲く時期。
 萩、薄、葛、撫子、女郎花、藤袴、桔梗。
 秋の花として萩は万葉集で最も引用されている日本人風尚の花。
 さて「啓示」に頼ることなく、自らの観察と判断によって生きることを選択した近現代の人達は、人の能力に関する事柄に大変興味を持つことになる。
 古代ギリシャ人がオリンピアの神々を祭るため四年ごとに行った競技大会を、一八九六年クーベルタン(仏)の呼び掛けによって復活させた近代オリンピックは、まさにその典型であって、二〇二〇年東京オリンピックはパラリンピックを加え、更に深く人間(の持つ能力)を理解しようとしている表われと云えよう。
 ところで、今年、ニューズウィーク誌が「日本科学者夢を破壊」と報じ、話題となった。この報道は細胞の透明化を利用して複雑な脳細胞の働きを分析し、人間の悪夢に繋がり「鬱」や「PTSD」の原因になっていると云われるレム睡眠をコントロールしてみせる実験に成功したことを報じている。細胞を透明化する試みは一九一一年以来科学界の大きなテーマであったが、東京大学の上田泰己教授がアミノアルコールを使って二〇一四年成功し、人の細胞の働きの研究が一挙に容易となった。  脳の働きである覚醒と意識の違いを脳の細胞回路と神経細胞の分子回路を明らかにして明確に示すことに成功。これから人の意識と意識下の働きの仕組みが細胞ベースではっきりとし、今迄わからなかった人の能力の部分が明らかになりはじめた。人にとってこれからも「人」は最大の興味関心の対象であり、謎でもあり続けよう。
 自調自考生、どう考える。