11月15日(金) 「自調自考」を考える 第322号

 十一月、霜月。立冬金盞(きんせん)香し。金盞は金色の杯を意味し、黄色い冠をいただく水仙の別名。秋は突然にやって来る。蒸暑さがなくなり、乾いた空気が花々の発する芳香を運ぶ。心持良い季節の到来である。
 平安時代には「菊の節句」とも云う重陽の日に「菊のきせ綿(わた)」なる行事があった。『枕草子』や『紫式部日記』にも書かれているが、老を去る呪(まじない)に、前夜菊香を移しておいた綿で身体を拭き清めるのである。日本人らしいいかにも自然を身近に暮らしていた時代らしい。一年の季節を24等分した二十四節気によると、秋分は寒露、霜降と移り、「立冬」を迎える。今年の日本の秋は大変忙しく賑わう。「九年ぶりの日本8人目のノーベル化学賞・リチウム電池の吉野彰博士の受賞」「天皇の皇位継承に伴う『即位の礼』の中心的儀式『即位礼正殿(そくいれいせいでん)の儀』に参列の世界191ケ国、機関の代表約2000人の来日」。
 同時に両陛下主催の饗宴の儀には164ケ国・機関の元首や王族約250人が参加され、そして茶会には18ケ国31人の王族が参加された。私はこの間、英国大使館でチャールズ皇太子と懇談する機会を持てたのは大変光栄であった。(詳細は校長講話で報告する)
 高松のこの峯(みね)も狭(せ)に笠(かさ)立てて
  盈(み)ち盛(さか)りたる秋の香(か)のよさ
   万葉集巻十 二二三三
  芳(かをり)を詠む(笠(かさ)は茸(きのこ)のこと)。
 万葉集には多くの植物が歌われているが、キノコは殆んどない。
 ところで、吉野彰博士は、ノーベル化学賞受賞決定後、リチウムイオン電池開発が地球環境の維持に大きく貢献することになることが受賞理由であったことを明らかにされた。
 地球環境問題は「国際連合が2015年9月に総会で採択した「持続可能な開発目標」(Sustainable Development Goals)、具体的な目標を十七項目にまとめ2030年迄に目標を達成するとした活動方針(国連SDGs活動)を支える重要なテーマである。先進国、開発途上国を問わず全ての国々がこの国際的約束を実行する為の努力が求められている。
 ノーベル賞受賞決定も、こうした地球規模の問題、環境問題をはじめとする教育、貧困、格差、雇用、都市問題等々が重大なこととして考えられ決められているようだ。世界中の科学者や科学者を目指す人々もこのことを充分に理解しておく必要がある。
 因みに、昨年のノーベル経済学賞にはウィリアム・ノードハウス氏の1990年代の気候変動と技術革新の世界規模での相互作用を解明し、二酸化炭素の排出量に応じて課税する炭素税導入の影響を試算した業績が評価されている。今年も経済学賞の三氏は、貧困問題の解消を目指す実証研究が評価された(三氏のうちエスター・デュフロ氏は女性として二人目で最年少)。研究は貧困を国家単位ではなく個人や集団が抱える問題が積み重なったものだととらえる。貧困と教育の因果関係から、教科書不足や子どもの空腹、識字率などの対策だけでなく、勉強が苦手な子どもへのきめ細かな学習支援が有効だと突き止めた。
 実は環境問題と貧困問題は関係が深く、環境破壊による自然災害が貧困を生むという因果関係が明らかにされ、ハーマン・ディリー氏の「持続可能な発展三原則」が発表され、国連による貧困撲滅も含めたSDGsに発展した。
 ところで「天皇即位」を祝って来日されたウィレム・アレキサンダーオランダ国王は、日本国天皇が名誉総裁、国王が議長の「国連水問題委員会」の一員で地球環境問題に深く関係する。昨年の「世界高校生水会議」はこの委員会と深くつながっている。
 自調自考生、地球環境問題、どう考えていこうか。