11月18日(土)「自調自考」を考える 第304号

 季節は白露、秋分、寒露、霜降と続き、「立冬末候金盞香し」となる。金盞とは金色の杯を意味し、黄色い冠をいただく水仙の別稱。金盞銀台とも云う。この時期を代表する水仙の花が咲き、かぐわしい香りが漂う。
 「或る霜の朝水仙の作り花を格子門の外よりさし入れ置きし者の有けり」(樋口一葉『たけくらべ』)
 ケルトの民俗行事から生まれたとされる「ハロウィーン」の季節と重なる。日本でも、特に渋谷での大騒ぎは世界に報道されているほどで、キリスト教万聖節前夜祭として子供達にとっては“Trick or Treat”とねだって歩く楽しい時を迎える。インディアンサマー「小春日和」の暖かな日射しに包まれる時でもあるが、この時にこそ必ず次にやってくる厳しい冬の季節を迎える準備をする時でもあろう。
 ところで、校長講話で生徒諸君に時期毎に紹介するビデオテープがある。八百年記念として二〇一五年に英国政府が作成し、世界に流した「マグナ・カルタ紹介」である。マグナ・カルタ「大憲章」のコピーは大英博物館で私が購入し本校図書館に展示してある。当時の英国国王ジョンが強制されて認めた勅許状で貴族や僧侶達の既得権を侵害してはならぬことを定めたものである。本来は全国民に対する自由主義的文書ではなかったが、マグナ・カルタの精神=王権に対する法の支配=はイギリス自由主義の要石と稱されるようになり、立憲主義の出発点の文書とされるようになる。近現代社会成立の為の歴史的遺産=Legacy=の一つであると云えよう。そしてこの十三世紀に英国にはケンブリッジ大学が誕生する。
 また今年はドイツのマルティン・ルターが一五一七年に宗教改革の扉を開いてから五百年の節目の年となる。西欧キリスト教世界に大変動をもたらし、近現代社会への移行につながったと云われる改革の現代的意味をよく考えるのに絶好の機会でもある。
 一五一七年十月三一日、ルターはヴィッテンベルグ大学に「九十五ヶ条の論題」のビラを貼り出し、当時のカトリック教会教皇レオ十世の贖宥状(免罪符)の価値に異議を唱え、その販売は破廉恥であると決めつけた。ドイツの貴族や人文主義者達は彼の見解を支持する。
 オランダの人文主義者エラスムスはこうして始まった宗教紛争の最中に『自由意志論』を著し、古代人(ギリシャ・ローマ)の学問と福音書の両立に努める。キリスト者の思考行動の原型、「自由意志」を中心とした「理性」と「良心」の三つの柱で成り立っている現在の状態の原点となるものが姿を現す。
 ルターの宗教改革はカトリック教会による統一された欧州の分裂を意味した。教皇を頂点としたピラミッド型の一元的社会を「聖書こそが権威だ」とする彼の主張で解体させ、「聖書解釈の多様さ」はその後の欧州の多元化社会出現につながる。宗教改革以降の欧州五百年の歴史は、多元的社会が分裂し共存する努力の積み重ねの歴史だとも云える。この意味で宗教改革は異端=違う考え方=が近現代社会を生み出したという素晴らしい歴史的遺産=Legacy=と云えよう。近現代社会の重要視する多様性は、VarietyではなくDiversityであることも良くわかる。
 二つの歴史的出来事について考えてみた。
 自調自考生、どう考える。