12月22日(木)「自調自考」を考える 第296号

 二学期が終了する。学校は冬休みに入る。短いが年が改まる大切な期間。有効、有益に利用したい。季節は小雪、大雪と続き、冬至となる。
 一年で一番昼が短く、これから日が伸びていくので古代は冬至が一年のはじまりであった。この時期楽しむ柚子湯は、かつて一年のはじまりであった冬至に柚子の香りや薬効で体を清める禊の意味があったという。
 初候 乃東生ず。月齢で数える太陰暦では毎月末日は新月のころとなり「月籠もり」と云い、一年の最後の日は「大晦日」と云って、一年をふり返り、新しい年の予感を楽しむ時となる。
 漱石が来て虚子が来て大三十日  正岡子規  陰暦では大晦日は十二月三十日。
 ところで今年は本校にとっては SGH(スーパーグローバルハイスクール)としての一年であった。ここで日本の教育改革の方向としての中学高等学校教育でのグローバル化、国際化が試行された。本校を含めての全国のスーパーグローバルハイスクールの試みは中間評価を受け、後半の仕上げの期間に入っている。大変楽しみなことである。私達の学園は二年後に予定しているシンガポール・インド・オランダ・中国等の高校生達との合同「高校生シンポジウム」の開催を目指しているところだ。
 ところで、今秋二十一世紀に入って日本人として十六人目となる(この数は自然科学部門で米国に次ぎ二位の数)「ノーベル医学・生理学賞受賞」が発表された。大隅良典東京工業大学栄誉教授が細胞が不要になった蛋白質などを分解する「オートファジー」(自食作用)と呼ばれる仕組みを世界で最初に解明した研究の功績による。この仕組みは細胞に核のある全ての生物が持つもので、細胞の中で正しく機能しなくなった蛋白質などを異常を起こす前に取り除く役割や、栄養が足りないときには蛋白質を分解して新しい蛋白質やエネルギーを作り出す役割を果たしている。  私達人間で云えば、約60兆もの細胞で出来ている身体は蛋白質を細胞の内にも外にも持っていて酸素や栄養を運んだり、筋肉を伸縮したり、微生物などから守ったりして生命活動を支えている。その為人間は身体の中で一日160g~200gの蛋白質を作る。その材料は食事で取り入れるのは約60g~80gで残りは自分自身の不要な蛋白質を分解して新しい蛋白質の材料としてリサイクルしている。オートファジーとはこの細胞の生まれ変わりの過程に関するものである。
 この働きは一九六〇年代初めには知られていたが、観察が困難で研究は停滞。大隅さんは当時は「ゴミため」と見られていた酵母の細胞の中にある「液胞」という器官に注目し観察を繰り返し、一九八八年世界で最初にオートファジー現象を見ることに成功。以後急速に研究が進展した。
 因みに酵母菌はヒトの細胞とその構造は基本的に同じながら通常一セットしか遺伝子を持っていない。人は二セットの遺伝子を持っているので片方の情報に損傷が生じてももう一方がバックアップしてしまうので遺伝情報の損傷が直接に生命現象に影響しにくい。一セットの酵母菌は遺伝子異常が直接生命活動異常として発現されるので研究材料に使われることが多い。オートファジー研究もこの系譜につらなる。これからが楽しみな受賞(単独受賞)である。
 最後に十二月十日の授賞式を前にしての大隅良典教授からの若者へのメッセージを伝えたい。
 ─今なかなか子ども達が自分の興味を表現することが難しい。「あれっ」て思うことが沢山世の中にあるので子ども達にはそうしたことへの気付きを大切にしてほしい。わかっている気になっているがわかっていないことが生命現象に沢山ある。「なんとかなるさ」でチャレンジしてほしい。同時にそれを支える社会であってほしい。─
 自調自考生、どう考える。