3月1日(水)「自調自考」を考える 第298号

 三月、弥生。雨水末候、草木萌え動く。
 古来自然と人は近しく暮らしていた。この時期、春の気配が増し、草木の息吹をそこここに感じる。  石走る垂水の上のさわらびの  萌え出づる春になりにけるかも  万葉集巻八春雑歌  志貴皇子  春の到来をよろこぶ気持がすーっと伝わって来る。
 渋谷教育学園幕張高等学校は第三十二期生の卒業を祝う時を迎える。「槐」同窓生壱萬余人。意気軒昂の春。  私の経験では、卒業式に想い出があるのは高校までで、大学になると「仰げば尊し」をナイーブな感性で歌える年令を超えてしまっているように感じる。アメリカの歌が原曲のこの「仰げば尊し」は、明治十七年の小学教科書に登場した一世紀以上経た古風な歌だが、いまだに教訓や感傷性を超えた何かがあって高校卒業にふさわしいように想える。
 ところで「多様性」diversityという言葉が二十一世紀を表徴すると云われ、それ故に二十一世紀は「先行きを見通すことがまことに難しい何がおこるかわからない時代」であると考えられている。若者にとってまことに厄介な時代である。
 その為、必要且つ不可欠な生き方として良く云われる言葉が「オープンマインデッド」open minded である。辞典によると「偏見なしに新思想や人の意見などを取り入れる」「虚心な」candid 「偏見のない」unprejudiced とある。
 この姿勢が大切であることは何となく判る。
 その一方必要として良く云われる言葉が「コラボレーション」collaborationである。辞典によると「合作、共同研究、協調、協力、(敵国への)助力」を意味する。これも大事にしなければならないと思える。
 二十一世紀に入って十七年、昨年から世界は混迷の度を加え先行きの見通しをいよいよ難しくしている。
 アングロサクソン国家英米に先導され、これ迄世界はグローバリズムを基調とした世界像構築に走っていた。そしてその理想的仕組みとして「欧州連合」EU (European Union) が活動し、これからの理想的な世界像を示すものとしてノーベル平和賞が授与(二〇一二年)されている。
 昨年、そのEUから国民投票により英国が離脱を決め(Brexit)、そして今年は米国大統領選によって「トランプ大統領」が誕生した。  英国では、今「EU離脱」から「英国の国益」をどう守るかで議論され、米国では、「権力をワシントンから移し、あなたたち国民(People)に戻す」と述べた大統領就任演説が示す「アメリカ・ファースト」の動きが注目されている。就任演説は約十六分”People”を十回使っている。
 又欧米では、ポピュリズムの広がりが指摘される。ポピュリズムは、人々(People)を意味するラテン語”Populus”が語源とされる。辞典によると「普通の人々の意見や願いを代表しようと主張する政治のタイプ」とある。
 この意味では民衆の意思を政治に反映する民主主義の趣旨に沿い、批判のニュアンスはない。然しポピュリズムは往々にして、情念に訴え、偏狭なナショナリズムと絡みやすい。そうなると「大衆迎合主義」と訳され、マイナスのイメージを含むものとなる。
 民主主義、民意をうけた政治の実行と云っても、大衆迎合にならぬ努力が常に必要なのである。人類の平和と安全、そして豊かな生活を維持発展させる為に一人一人が常に努力し続けることが求められる。主権者教育、歴史道徳教育が重要視される所以はここにあろう。
 地球上で繁栄し続けてきた私達人類ホモ・サピエンスは、いよいよ地球に生存する全人類ホモ・サピエンスの人権の拡充を目標と考え全生物の保安を考慮するようになっている。
 先行きの見通しつきにくい時代とは云え、このことは確かなものと云えよう。不安や不信にふりまわされることなく沈着冷静に毎日の努力を積み重ねよう。
 自調自考生どう考える。