4月7日(金)「自調自考」を考える 第300号

 四月、卯月。清明初候、全てのものが清らかで生き生きするころ。若葉が萌え、花咲き、鳥が歌い舞う、生命が輝く季節の到来。
 大陸の東端と西端で温帯の日本と英国を比較すると、地形、風土の違いで、動植物の種類と数が圧倒的に違う。その豊かな植物がこの時期、一斉に咲き賑わう。
 四月八日は灌仏会。浴仏盆に誕生仏を置き、甘茶を注いで釈迦の誕生を祝う。
 又津軽地方に伝わる民話にもとづく春の季語「雁風呂」は越冬出来なかった雁の供養の意味だが、日本人のこの時期の複雑な感性を顕している。
 雁風呂や生木のやうな父の臑         柴田千晶  万葉集大伴家持二首迎春  春の苑紅にほふ桃の花  下照る道に出で立つ乙女  わが園の李の花か庭に降る  はだれのいまだ残りたるかも  虚構と幻視で日本の心をうたう。
 この時、私達の学校では「入学式」。新しい「自調自考生」を迎える。
 「青年即未来」未来へ出発する青年達はどのような世界へ向けて旅立つのだろう。
 経済協力開発機構(OECD)が計画、実施している国際学習到達度調査(Programme for International Student Assessment)テストによると、受検する生徒たちに想定している世界は三つある。
 一つは宇宙全体。二つ目は多様な文化が併存している地球社会、そして三つ目の世界が「人の心の中」だ。これを舞台として縦横に活動していく若者の姿を想像すると心が浮きたつ。
 これから本格的に動き出すグローバル化とデジタル情報化。その結果予想もつかないような大変革が顕れ、人の生き方も大きく変革を迫られることになるであろう。
 その際、大切なのは自分のアイデンティティ(自己同一性)を意識して「自調自考」の精神をもって活躍することだ。
 日本の伝統文化がきっかけとなって「奈良会議」(ユネスコʼ94)が開かれ、その結果文化の真正性(Authenticity)が国際的に定義された。文化の多様性(Diversity)が存在する中で、グローバリズムに対する姿勢としてこの出来事は大変重要なことである。それぞれの国が伝統文化を重要視して大切にすることで、グローバリズムが一層意味のあることとなる。
 ここで前述した三つの世界での活動について考えてみよう。
 現在、日本の世界における素粒子理論は世界最高峰に位置する。物質を構成する「素粒子」は12種類確認されている。このうち6種類がクオークと呼ばれ、物質の原子を作る陽子や中性子は2種類のクオークでできている(標準理論)。ノーベル賞受賞のきっかけとなった小柴昌俊東大教授らが三十年前に世界で初めて観測に成功した「ニュートリノ」は電荷を持たない中性の粒子で、この研究は「宇宙はどのように出来たか」という究極の答えに迫ることになる。
 天文学では「太陽系にある未知の第九惑星の存在」、「地球によく似た太陽系外惑星の発見(七つ星、39光年先)」など話題が豊富。又現代は地域や会社など所属するだけで心理的に安心出来たものの力が弱まった為、個人レベルでの「承認欲求」やコミュニケーション能力の向上などの必要性が強くなった。これもこれからの大切なテーマとなろう。今世界は「歴史的な大転換期にあり基本的な枠組み(パラダイム)が転換(シフト)しつつある。」(トーマス・クーン『科学革命の構造』)と云われるが、一方学問には「夢中になるという幼稚性」と「究めるという行為の前では皆平等」という二つの条件が必要(鷲田清一)という意見もある。
 自調自考生、どう考える。