4月15日(水) 「自調自考」を考える第327号

 四月、卯月。清明、玄鳥至る。東南アジアで冬を過ごした燕は、春とともに数千キロを、海を渡って来る。四月八日は、お釈迦様の生まれた日。灌仏会と云い、花の季節なので誕生を祝う降誕会が花まつりになる。生まれた日に空から甘露の雨が降ったという云い伝えがあることから、浴仏盆に誕生仏を置いて甘茶を注いで祝う。
 今年も「春」からはじまる四季の一年が学校と共に動き出す。

虹が出ると、
みんなおしえたがるよ
石垣りん
 詩集『レモンとねずみ』
「虹」より

 春の雨上がり、空に初めて虹がかかる。新しい学年が始まった。

 雲雀あがる春へとさやになりぬれば
  都も見えず霞たなびく
万葉巻二十 大伴家持

 この時期、春の到来を祝う。晴朗な気分がのびのびと歌われる。
 ところで、今、AI(人工知能)に関する書物が目白押しである。これからの人間社会がどうなるか、そしてそこでAIがどのような役割を果たすかについては、特にこれからの社会で生きる=未来の現在を生きる若者達にとっては、重大な関心事である。その目でこれらの書物(例えばジョン・ブロックマン編著『ディープ・シンキング』や菅付雅信著『動物と機械から離れて、AIが変える世界と人間の未来』)を読むと、AIの未来について楽観的な人も悲観的な人も、なんらかの懸念を持っていることがわかる。根本的な懸念はAIが人間の考えること=人間の作動原理を充分理解出来るかについての疑念であることと考えられる。例えば、人間が人間である為に考えられて来た「自由」「幸福」「人権」「民主主義の観念」といったテーマにどう取り組んでくれるかといった問題について、AIがどう答えるものなのかということ。
 「われらの政体は、少数者の独占を排し多数者の公平を守ることを旨とし、民主政治と呼ばれる」古代アテネの自由と民主政治の理想を説いた政治家ペリクレスの紀元前四三〇年の感動的な演説の一節である。これ以降、紆余曲折を経て現在もその歴史的経験の積み重ねに人間の考えを合わせて民主主義は現存する(これからの変化も予測されつつ)。世界はヴォルテールによって真理を、モンテスキューによって正義を、そしてルソーによって幸福を知ることが出来たと云われる有名な箴言がある。我々が、教育の最も重要な目標として考えている「基本的人権」は「フランス革命の人権宣言」や「アメリカの独立宣言」に由来すると考えられているが、これらの革命はたしかに民衆による政治革命で実現したものであるが、実現には、それ以前の啓蒙主義思想の歴史的積み重ねが必要であった。エラスムスやトーマス・モアから始まり、モンテーニュの『エセー』(一五八〇)、デカルトの『方法序説』(一六三七)等の著作による衝撃、フランシス・ベーコンの経験論そしてガリレオ、ニュートンらによる科学革命のはじまり等が綜合されて「革命」が結実された。そしてその「歴史」のなかから生まれ変動する人間にとっての「人間である為の作動原理を尊重すること」こそがAIとビッグデータに頼る未来の社会が必要とするものだろう。
 昨年の秋、卒業生の演奏会で演奏された、バーンスタイン作曲「キャンディード序曲」は、近代を開いた一人ヴォルテールの有名な小説『カンディード』(一七五九)が主題となっている曲である。また有名な日本の作曲家久石譲がクラシックの名曲を現在の新解釈(ロック調のベートーヴェンやブラームスの全交響曲演奏)で試みるといった動きは、人間にとってこれから一層「歴史」の重みが意識されることになる予兆なのかもしれない。
 自調自考生、この「歴史」の重みをどう考える。