「自調自考」を考える 第378号

二〇二六年、令和八年。暦注干支では、丙午である。干支は、中国古来の東洋思想(陰陽五行説)に基づく六十年周期で循環する暦で、未来を探る手段として使われて来た。この循環する暦という思想は、古代ローマやエジプトの暦にも見られる。
 知性を活用して生きるという生き物である「人」が、本能によるのでなく、「天道(神意)」を探り当てて生きようと考えた結果生まれた思想といえよう。「丙午」、十干の三番目、丙は「火」の要素を持ち太陽や明るさ、生命のエネルギーを表すとされ、午は古くから人間と共に生きてきた動物、人を助ける存在。その為、「丙午」の年は「熱いエネルギーに満ちて、活動的な年」になると考えられている。明るい年になってほしい。今、旧暦では小寒初候芹乃栄とされる。
 一年で最も寒さが極まるこの時期の始まりに、春の七草の一つ「芹」が群れ生えてくるのを楽しむ。七日には、春の七草粥をいただいて健康を祝う行事がある。
 何となく 今年はよい事 あるごとし
  元日の朝 晴れて風なし
石川啄木

 新しき 年の始めの 初春の
  今日降る雪の いや重け吉事
『万葉集』巻二十 大伴宿禰家持

 昨年の渋谷教育学園百周年記念式典が、渋幕(千葉)、渋渋(東京)の略称で知られる中高一貫校を運営する学園百周年ということで次のように報道された。
 「共学トップレベルの姉妹校。自分の頭で考え、内面の成長を促す『自調自考』を教育目標に掲げる。帰国生にも広く門戸を開いて社会のグローバル化に対応する一方、進学実績でも共学トップレベルの姉妹校の地位を確立し、男女別学から共学への時代の流れを加速させた」、「教育の目標は自分を知りたいという人間の欲求に応えることであり、その上でDNA解析が証明するように一人一人が異なるからこそ、固有の自分を理解してほしい。その為に『自調自考』の思考や方法論がある、と学園長は語った」
(毎日新聞デジタル十一月十一日より)
 渋谷教育学園の一員として次の百年に向けて出発しようとしている私達にとっては、大変ありがたく分かり易い内容の報道である。そこで、前回に続き、今回は本学園の教育目標について考えていることを説明しよう。私達の国の近代化・現代化に関わって「教育」の果たす役割は大変に重要なものがある。前号では、近現代国家の成立運営に大きな影響を及ぼす、国家の有すべき「道義心」は、国家の成員一人一人の個人が有すべき高い「道義心」に深く関わっていると説明した。福沢諭吉が述べたとされる「一身独立して一国独立す」はこの意味で解すべきである。
 また、良質で、高い道義心を有する質の高い「個人主義」の重要性を夏目漱石は指摘している。(ノーブレス・オブリージュと解してもらっても良い。『私の個人主義』)そして、その教育的育成法として「自調自考」の重要さがあるのである。
 これからの百年は、いよいよ人工知能(AI)や脳科学の進歩によって「人間の知性」の定義までもが揺らぎ、個人の自由やプライバシー、倫理感が問われてくる。知性や死、人間の自由意志とは何かといった根源的な問いが投げかけられよう。「科学の発展」が「人間社会」に大きく影響を与える時代が目前にある。これからは「自調自考から人の生き方」を考える「哲学」の重要性がいよいよ問われることになる。ここで『古今和歌集』の序文「仮名序」冒頭の「やまと歌は人の心を種として」に由来する『心の中の種 Seeds in the Heart』というドナルド・キーン(米・日本文学研究者)の残した言葉を自調自考生に贈りたい。「自分の心の中にある種……関心や情熱を大切に育ててほしい」という意味で、彼の残した著書の題になっている。
 幸い、今年は第二の日英同盟といわれる新たな日英パートナーシップ「MUSUBI」が締結され、このイニシアチブにより一層の経済成長と文化交流が促進されようとしている。
 自調自考生、どう考えている。