「自調自考」を考える 第340号

十一月、霜月。二十四節気では、霜降、立冬となる。七五三のお参り時期を迎える。私達は季節の移ろいをこまやかに感じとって生活を楽しみ、行事に願いを込めて身も心も豊かに生々と生きてきた。コロナ禍の圧迫、抑圧された閉塞感を何としてもこの古来の日本人の生活文化を復活させて乗り越えよう。
 季節は金盞=金色の杯・水仙の花の別名=の花が咲き、芳しい香りが漂うころ。

 或る霜の朝水仙の作り花を格子門の外よりさし入れ置きし者の有けり
『たけくらべ』樋口一葉

 紅葉が舞い、どんぐりや果実が実る秋は、人と樹木が最も近付く季節でもある。色づいた落ち葉から樹木の名が判ると劇的に情報量が増え、楽しむことが出来よう。
 染井吉野、銀杏、楓、欅、花水木、七竈、楠、等々。
 先般、東京国立博物館で江戸時代の絵師、尾形光琳が秋草模様=菊、萩、桔梗、芒など=を藍と墨の濃淡で描いている着物=冬木小袖、重要文化財=を拝見し、日本文化の心髄を覗いたような気がした。

 あしひきの山の黄葉今夜もか 浮びゆくらむ山川の瀬に
万葉集巻八 大伴宿禰書持

 そして、学校は、新学期に入り、ワクワク、ドキドキする楽しい学校生活実現の為に、学習に、運動にそして学校行事(校外研修)にと活動を開始している。
 十月には高二=九州広島=、中三=奈良=、中二=鎌倉=、中一=南房総=へと実施された。残された高一は来年三月に広島方面で実施される。
 職域接種を利用し、中高教職員、生徒参加者の希望者全員はワクチン二回接種とPCR検査全員陰性を確認し、万全の感染症対策を施行しての実行であった。無事終了してホッとしている処で、結果、生徒諸君、そして学校全体が何か明るく生々として来たように感じている。
 十月に世界保健機関(WHO)に、将来にわたって新感染症に備える為に「SAGO」と云われる新組織が立ち上げられ、日本からもウイルス専門家西條政幸博士が参加している。人類社会全体で取り組む対策を何とか樹立しようとしている。
 WHOのシンボルマークはギリシャ神話に出てくる医の神アスクレピオスが持つ蛇が絡みついた「アスクレピオスの杖」である。神話ではアスクレピオスは天上で「蛇遣い座」となっているが、杖が象徴する医学によって出来るだけ早くの感染終息を願っている。秋の好季節、落ち着いた雰囲気のなかで楽しく学校生活を送りたい。
 今年も秋十月、ノーベル賞の受賞が発表された。自然科学分野の三賞では、物理学賞に真鍋淑郎、米プリンストン大学上席研究員(90)(米国籍)ら三人が選ばれ、生理学・医学賞では二人、化学賞でも二人の受賞が決定した。
 生理学・医学分野の受賞者ベンジャミン・リスト教授は独のマックス・プランク研究所の教授で北海道大学特任教授を兼務している。北大では、リスト教授は「化学反応創成研究拠点」で触媒研究グループを率いている。新型コロナ禍で来日は簡単ではないものの、今でも週三回ほどオンラインで研究員と議論しているという。拠点の研究員七十五人ほどのうち半数が外国人で、科学研究は今や国境を越えた連携や研究者の流動が常識になりつつある。
 研究力の発展には、日本はいよいよ「よそ者が遠慮せずに意見を述べ、皆が耳を傾ける。研究者にとっての好ましい雰囲気が大切となる」ことに注意したい。その意味では真鍋博士が米国に研究拠点を置いていることは大切なヒントを与えてくれている。
 自調自考生、このことをどう考える。