「自調自考」を考える 第353号

学校は今、三月弥生、春分。太陽が真東から昇り、真西に沈む日を迎え、「卒業式」そして「修了式」と続き、新学期の準備真最中である。
 春分の日を中日に前後計七日間が、春のお彼岸で、先祖の霊を供養する仏事が行われる。日本では古来このころから農事始の神祭が仏教とは別の信仰行事として定着していたようだ。

 竹の芽も茜さしたる彼岸かな
芥川龍之介

 古来日本人は、春の到来を喜び、歌も多く残している。「春さる」「春立つ」は春が来るという古語。

 ひさかたの 天の香具山 このゆふべ
  霞たなびく 春立つらしも
『万葉集』巻十春雑歌 柿本朝臣人麿

 日本の暦が、世界基準である太陽暦(グレゴリオ暦=新暦)に変わったのは、明治五年十一月九日の「改暦ノ布告」による。「十二月三日をもって明治六年一月一日」となって、太陰太陽暦(旧暦)から太陽暦(新暦)になる。暦の改変による庶民の生活は大変なものであったようだ。
 日本人が直接体験した「グローバリズムによる大激変」と云えよう。
 四季の変化豊かな日本列島に生きる私達は、太陽暦を使用しつつ、旧暦と云われる天保暦(太陰太陽暦=世界で最も精度が高く生活者にとって生活がしやすい暦)の示す季節感、その中で育った豊かな感性を持つ日本文化を大切に育み残していきたいものである。
 ここで「グローバリズムによる変化」という切り口で昨年十月、京都で開催された「科学技術の国際フォーラム」で紹介された「ホライズンヨーロッパ(HE)」を解説し、私達のこれからを考えてみたい。
 まずフォーラムでは、世界的に評価されているEU(欧州連合・欧州二十七ヶ国による政治経済共同体一九九三年マーストリヒト条約に従って設立。欧州経済共同体、欧州石炭鉄鋼共同体、欧州原子力共同体の三つの機関から成る)の科学分野に関する研究提言の内容が紹介された。そしてHEはEU以外の国にも門戸を開き国際協力で課題研究に重要な役割を果たしていること。そして国際協力が進めば、学問や研究の自由が世界に広がり、地球規模の課題解決につながることになると説明した。
 既に、HEはEU加盟国とEU以外の参加国十六ヶ国の四十三の国からなる「研究ファミリー」を作っており、今後も拡大を続けると予言されている。差し当たり、二〇二一年~二〇二七年に総額九百五十五億ユーロ(約十三兆二千億円)を投じ、気候変動や癌といった五つのミッションの課題解決を目指す。そして一定の条件を満たせばEU域外の国からの参加が可能。前身のプログラムには、日本から約三百の機関が参加したという。EUは基礎研究や共同研究に強いとされているが、研究やイノベーションへの投資で社会がどう変化していくかという点では改善される余地があると考え、二十二年七月には差し迫った社会課題に対処しようと、新しい技術を開発し市場に投入することを目指す「新欧州イノベーションアジェンダ(行動計画)」を採択した。アジェンダでは温室効果ガスの排出量を減らし、経済の競争力を向上させることを掲げている。実現に向けての課題は量子技術や人工知能などの技術(ディープテック)である。
 現状HEの資金の35%は気候変動との闘いや生物多様性の保全に当てられているという。
 このように欧州連合が基軸となる国際協力によって画期的に研究内容・規模が拡大充実する経過は、「グローバリズム」の効用を示すものだろう。そこでEUの成立を歴史的に検証してみると、第二次大戦の反省から、独仏が不戦の誓いをもとに和解し、独仏枢軸と欧州統合が始まったわけではない。両国がそれぞれの国益をぶつけ合いながら、戦後復興を両国の特色、独の資源=石炭=と仏の鉄鋼業の統合による経済力復活で果たした結果生まれたものである。現代EUはより高度に統合され、数々の危機を粘り強く議論することで乗り越えてきた。この議論が多様性を許容する今日のような発展を可能にしたと云えよう。
 研究力低下に悩み、日本では大学の十兆円ファンドが創設され動き出した。HEを参考に、これからの発展を期待している。
 自調自考生、どう考える。

検温モニターを通っての登校も今日が最後。