「自調自考」を考える 第333号

二千二拾壱年、令和三年、暦注の干支で辛丑の年を迎える。干支は東洋思想(中国由来)が生み出した未来に起きる出来事を知る為の暦のシステムである。
 十干と十二支(自然と生命)の組み合わせに、陰陽五行思想の考えを入れ未来を予言する。今年の干支「辛丑」は「思い悩みながら衰退しつつ、新しい生命の息吹が生まれ、堅実で強い精神力によって大きく発展する年」であると予言している。未来は既に決まったものとされている東洋思想の興味深い占いで、私達の文化の特長の一つとなっている。
 ところで、日本の四季の変化のリズムにのせて暦を二十四節気、七十二候に分けた旧暦によると、今頃は、小寒初候芹栄うとなる。
芹がすくすく群れ生え、七日には春の七草(せり、なずな、ごぎょう、はこべら、ほとけのざ、すずな、すずしろ)の入った七草粥を楽しむ。

 あらたまの 年行きがへり 春立たば
  まづわが屋戸に うぐひすは鳴け
万葉集巻十九 右中弁大伴宿禰家持

 新しい年を迎え、干支では未来は決まっているものとするが、「青年即未来」である青年にとって未来は決まっているとは考えにくい。
 ドイツの作家ゲーテの直筆の文学作品は、ユネスコ世界記憶遺産(世界の記憶)に登録されているが、彼の作品『ファウスト』には「自分の魂を悪魔に引き渡す代わりに未来を予言する力を得る」という場面がある。決まっているいないに不拘、未来を正確に予言する力は人類にとってまことに魅力的な、願望の的になるもののようだ。
 人類は長い歴史のなかで、ここ五、六百年間は「科学の時代」と云われる時代を過ごしている。ルネッサンス期にイタリアのガリレオが発明したと云われる手法(事実をじっくり正確に観察し、その観察の結果得られた変化を数学に依って公式化して、数式を活用して未来に現れるであろう変化を予言・予測する)を「科学」=Science=と云う。この手法が、正確に未来の変化(例えば、日蝕、月蝕等)を予言することに人類は感動して夢中になった。旧年暮れ、日本中が大騒ぎしていた「はやぶさ2のカプセル」の帰還もやはり「未来の予言能力」に深く関わる現象であろう。
 ここで新年なので「始め」の話になる。今、世界中の科学者達は「起源」について知ろうと夢中になっている。曰く「宇宙の起源」「地球の起源」「生命の起源」「脳の起源」等々。
 起源を知ることで、その後の変化が正確に追跡出来、その経過を延長して、正確な未来の予測に援用出来るからである。ダーウィンの『種の起源』は地球上の生物の過去、現在、未来を見通してくれる重要なヒントになる「進化論」を産み出した。起源からの変化を観察して得た「進化論」によって、地中から発掘された「恐竜」の手の骨構造が、現在の鳥達の手の骨構造と基本が同じであることの科学的説明が可能となった。真実を証明する手段としての科学の役割は「起源」を知ることから始まると云って良いだろう。
 「はやぶさ2」の話に戻ろう。カプセルが持ってきた試料分析の目的は「太陽系の起源」と「地球の海や生命の材料」の解明の二つ。アステロイド(小惑星)は地球のように高温で溶けていた過去を持たず、四十六億年前の情報がはじめのまま残されている「太陽系の化石」なのだ。やはり科学は「始め」を知ることが大切で、今回もそれが目的だ。そしてこれから発表される試料分析の結果は人類に大きな夢と未来を開いてくれると考える。『西遊記』でも実は大切なのは持ち帰る「お経」の内容でその経過(旅行記)ではない。
 自調自考生、新年早々どう考える。