「自調自考」を考える 第342号

 二〇二二年、令和四年、暦注干支で壬寅を迎える。
 干支は東洋思想(中国由来)が生み出した世の理を知り、未来に備えるための暦のシステムである。
 壬寅は「陽気を孕み、春の胎動を助け」、冬が厳しいほど春の芽吹きは生命力に溢れ、華々しく生まれる年になるということらしい。未来は既に決まったものと考える東洋思想が反映し我々の文化の特長の一つである。
 世の中すべては、五元素に分類され「陰」と「陽」に分かれるとする思想(陰陽五行説)を礎にし、太陽を象徴とした生命の循環を十干は表し、月を象徴とした循環を十二支が表して、この二つの組み合わせを順番に並べるので六十番目で繰り返される。還暦と呼ばれる所以。このような循環する暦のシステムは古代エジプトやローマの暦にも見られる。日差しの角度の変化や季節の移り変わりなどから太陽の循環、そして死と再生を繰り返す循環思想が生み出され暦が作られている。ともあれ、今年の干支では華々しく楽しみの年であるようだ。皆さんにとっても素晴らしい年になってほしいと祈っている。
 季節は小寒初候芹乃栄。七草粥(春の七草=せり、なずな、ごぎょう、はこべら、ほとけのざ、すずな、すずしろ)をたのしもう。

 石激る垂水の上のさ蕨の
  萌え出づる春になりにけるかも
万葉集巻八 志貴皇子

 志貴皇子の懽の御歌。万葉集中の傑作の一つと云われる名歌。
 ところで、年が改まって今、人類の進歩に深く係る「文化」を話題としよう。(東京五輪・パラリンピックにも文化プログラムというお祭りがあった。)
 「文化」とは、「人間が学習によって社会から習得した生活の総稱」(広辞苑)とあるが、私の知る限り、この言葉が日本で深く大きい意味で使われたのは、幕臣であった福沢諭吉の著書『世界國盡』(明治二年刊)からである。この本で欧州先進諸国の説明に使った「文明開化富国強兵」という用語がその後の日本の発展展開を示すことになった。
 ここで福沢は「文明とは蒸気機関と電信のことである」「蒸気と電信の登場は人々を変える」と述べ、「文明開化」が人々の考え方や行動を変える力があることを示し、「文化」が人を変化進歩させる力を持っていることを指摘している。
 ところで進化論(ダーウィン)は、人間は地球上の生物の一種で、共通祖先から進化した一員にすぎないと述べている。
 しかしそれでも、私達人類は他の生物と比べとてもユニークな存在である。我々の「文化」が我を特徴づけている。そして今や人類の活動(進展開発活動)は地球の「容量」Capacityを越え出していると考えられている。つまり地球の「完新世」Holoceneの時代を「人新世」Anthropoceneに変えてしまうのではという危険のことである。
 地球史上稀な安定した温暖な時代(完新世)一万二千年間に、人類は農耕時代を作り、文化を作り出す礎を手にした。人類の有する特別な遺伝的資質(周囲から知恵を学んでそれを伝える力)つまり社会から学ぶ全てのものを文化と云うが、「文化進化」という因果関係が人間を特別なユニークな存在にしてきた。私達はこれから文化進化にグローバル・コモンズ(例えば地球気温を産業革命以前の1.5度上昇以内)とでも云う守るべき制約を意識して活動しなければなるまい。SDGs(気候変動等を含む)活動はこれを具現化したものである。
 自調自考生、どう考える。