「自調自考」を考える 第356号

七月、文月。季節は夏至を経て小暑。一年で最も日が長く夜が短い時期から、夏の暑さが日に日に増す時を迎える。そして、桐の花がひときわ目立つ大暑。学校は夏休みを迎える。
 この季節、よく目にする鳥は、翡翠。雀くらいの大きさの鳥である。池の水面をすれすれ滑るように飛び、頭、翼は濃い緑色、背中はコバルト色で腹はオレンジ色。雄は嘴が黒く、雌は下嘴が赤いので雌雄の区別が出来る大変綺麗な鳥。記録によると江戸時代、水運豊かで千を超える庭の池が多くあった大名屋敷の江戸と周辺には、翡翠が目につく程に多かったようである。その巣穴は池端の崖地にある。
 人口百万と云われる当時、世界有数の大都市であった江戸の庶民達も、この自然の変化の豊かな季節を楽しみ、鳥を愛でる文化を享受していたようである。
 学校は一学期終了。
 地区別保護者懇談会、授業公開、研究週間、スポーツフェスティバル、メモリアルコンサート(ピアノ演奏者、高二・辻本侑太郎君)、そして中学各学年行事、高一歌舞伎鑑賞教室、高二オペラ鑑賞教室等々、学期の重要な行事が大きく成果を挙げて終了。コロナ禍以前の学校行事に落ち着いてきた。

 夏山の木末の繁にほととぎす
  鳴き響むなる声の遥けさ
『万葉集』巻八 大伴家持
 旧暦、大暑より始まる夏休みは、立秋、処暑と続き秋の新学期を迎える迄続く。
 これから始まる夏休み。夏の季語に「秋隣」があるように、周到な事前計画と綿密丁寧な実施を心掛けないと、あっと云う間に「秋」になってしまう。国連の「幸福の日」行事にも、幸福になるためには、良い暮らしが必要であるが「良い暮らしの要素を決めるのはあなた自身である」という表現がある。夏休み。毎日約十五時間余。約六週間。総計六百三十時間。この時間をどう過ごすかによって、それぞれのその後の学校生活に大きな影響を及ぼすものであることは、例年の実態で証明されている。充分に「計画」を立て、それを実行することである。
 「AAR」という言葉を念頭に。
  AはAnticipation 予測する。
  AはAction    実行する。
  RはReflection  吟味する。
 ここで、大切なのは「習慣」を身につけることである。「習慣は第二の自然である」(モンテーニュ)。「努力によって得られる習慣だけが善である」(カント)。そして「若いうちは何かになりたいという夢を持つのもいい。しかしもっと大切なのは、いかに生きるかである。日々の行いを選び積み重ねることが、人生の行方を定める」(串田孫一、詩人、哲学者、山の随筆で有名)。
 自調自考生よ。夏休みに「良い習慣」を身につけよう。良い夏休みになるかどうかを決めるのは君自身なのだ。
 ところで、日常の学校生活でそれぞれが学習して育てる能力は、所謂認知能力=言語能力と数学的論理能力であると考えられている。リテラシー教育とも云われる。
 この分野に、つまり人間が身につける能力を形成する分野に、今までになかった新しいAI(人工知能)が登場した。ChatGPTに代表される生成AIの急発達である。使い方次第で、人間一人一人の知の発達を妨げるリスクがあると考えられている。
 現代、私はこれについて「影響をポジティブに捉え、機を逃さずしっかり活用していくべきだ」と考えている。つまりより深い問いに反応するように利用することで人類の前進につなげることになるべきだと考える。勿論社会に危害を及ぼさないよう責任をもって開発を進め、生徒諸君が誤った使い方をしないよう指導しなくてはならない。
 「数学」を例にとる。伊藤由佳理東大教授によると、学校で学ぶ「数学」には二つの顔がある。ひとつは計算が中心の道具としての数学である。この内容はすぐに他分野で応用利用される。物理学などの自然科学、工学、経済学等にも利用される。もう一つは、抽象化、一般化をするような研究に近い数学である。これは将来的には役立つかもしれないが数学以外での重要性はよく分からない。
 「多くの例の中にある対称性や規則性など美しい性質から、新しい定理を見出す科学」と云われる。そして新しい定理を証明する為に新しい概念を定義することもある(フェルマー予想・オイラーの数式等)。
 後者の法則性を見つけ出す処はAIの得意とする分野と重なる。但し「美しさ」には反応しない。「新しい概念を定義する」生成はできるが創造はできない。どう生成AIとつきあっていくか。
 自調自考生、どう考える。