「自調自考」を考える 第359号

二学期終了。これから冬期休暇に入る。短いが、年の始めを迎える大事な時期である。有用、有益な計画を立て、しっかり過ごしてほしい。
 旧暦ではこの季節を「冬至 初候 乃東生」と云う。「乃東」は夏枯草の古い呼び方で、初夏に花開く靭草のこと。花が夏の終りから秋にかけて枯れて褐色に変じるからである。

 尋ね行く武庫の山路や靭草
素丸

 私達の先祖は、靭草の花をとても好んでいたようである。
 冬至は、一年で最も昼が短く、夜が長い。そしてこれから日が伸びていくので、古代では、冬至が一年の始まりとされていた。この時期の柚子湯は、一年の始まりに身を清める禊の意味があったと云われている。
 今年は柿本人麻呂没後千三百年。
 人麻呂歌集より二首ここで紹介する。
 私たちの誇る偉大な詩人の詩想をどう受け取めるかな。

 雲を詠める

 痛足川川波立ちぬ巻目の由槻が嶽に
  雲居立てるらし

 あしひきの山川の瀬の響るなへに
  弓月が嶽に雲立ち渡る

『万葉集』巻七 柿本朝臣人麻呂
 二〇二三年は、コロナ禍が一段落した年であったが、同時に二〇二二年十一月米新興企業OpenAI(非営利組織)が発表した「チャットGPT」の公開で激動した年でもあった。
 大幅に進化したチャットGPTを利用した人は、世界で、二ヶ月で一億人を越えたと云う。
 人間がものを考える際、二つの方法によって正しい答えを探る。一つが「演繹法」であり、もう一つが「帰納法」であろう。
 広辞苑によれば、「演繹」とは「前提された命題から、経験にたよらず、論理の規則に従って必然的な結論を導き出す思考の手続」で、「三段論法はその代表的なもの」とある。そして「帰納」とは「個々の具体的事実から一般的な命題ないし法則を導き出すこと」で、「特殊から普遍を導き出す」と説明している。
 この特殊な事実から一般的な結論を導き出す推理を「帰納的推理」と云い、通常は比較的少数の事例から全称の結論を導き出すものであるから、結論はどうしても「蓋然的(=或いはそうであろうと思われる)」なものにすぎない。しかし事例を慎重に選べば、相当確実な結論を導き出すことは出来る。このことの科学的意味、つまり科学的研究法としての価値を明らかにしたのは、フランシス・ベーコンで、ジョン・スチュアート・ミルが大成した。
 ミルの定式化した因果関係確定の五つの方法は今日でもよく議論されている。「一致法」「差異法」「一致差異併用法」「剰余法」「共変法」である。
 さて、二〇二三年を振り返ると、「人類社会」を揺るがす大事件が続発している年であったと云えよう。
 人類が歴史のなかで育ててきた「基本的人権」「平和」「自由」「民主」といった普遍的価値観が危殆に瀕する事態が続発した年であった。
 この状態を少しでもより良い状態に改革する為にも、人類は一層の賢明さ、知恵を鍛えねばなるまい。
 そこで、一年間我々を含め、人類社会を騒がせた「チャットGPT」問題を賢明に理解して、利活用に供する必要があると考えている。
 特に注目したいのは「非営利」OpenAIのこと。この組織は明らかに、ハンナ・アーレントがその著作『人間の条件』で示唆した人の働き(=労働)についての考え方に影響を受けたものと解している。「労働はレーバーでもワークでもなくアクションである」と述べている考え方、古代ギリシャ市民の生き方から示唆を受けた考えを実践したものと思われる。
 これはこれで、大変興味深い。そしてこれはもう説明する迄もなく理解されていることであろうが、「チャットGPT」の方式は上手く利活用した「帰納的推理」の延長線上の方式である。従って現状ではまだ、「AI」は「理論」や「法則」などの「仕組み」を理解するのは苦手で、どうしても最後は人間が人の頭脳を活用して「真理」を求める活動を「補完する」必要があるものと考えている。
 「まあこんなものか」という答えは得られるが、「絶対正しい」というところ迄は行っていないということか。
 自調自考生、どう考える。