「自調自考」を考える 第360号

二○二四年、令和六年、暦注干支では、甲辰の年である。
 干支は中国古来の東洋思想(陰陽五行説)に基づく六十年周期で循環する暦で、未来を探る手段として使われている。
 この循環する暦という思想は古代ローマやエジプトの暦にも見られる。
 人は、本能に従って生きるのではなく、知性を活用して生きるという生き物であるが故に、「天道」(神意)を探り当てて生きようと考える結果生まれた思想と云えよう。神意によれば、甲辰の年は、「生命や物事の始まり」を意味する甲と、十二支中で唯一の想像上の動物で「振るう」を意味する辰が、「自然万物が振動し、草木が成長して活力が旺盛になる」状態を表している。甲辰の年は「変革」の年で、「努力が実って夢が叶いやすい年」とも云われている。
 「龍を烹、鳳を炮る」と云えば、めずらしいご馳走の意味となる。
 ここで新年を寿ぐ歌として有名な『万葉集』中の名歌、志貴皇子の「懽」の御歌と柿本人麻呂の「春雑歌」を紹介する。

 石激る垂水の上のさ蕨の
  萌え出づる春になりにけるかも
巻八 志貴皇子

 ひさかたの天の香具山このゆふべ
  霞たなびく 春立つらしも
巻十 柿本人麻呂

 この時期、旧暦では、小寒水泉動。地中で凍っていた泉が動きはじめるころ。十一日には鏡開き。そして春の七草(せり、なずな、ごぎょう、はこべら、ほとけのざ、すずな、すずしろ)と七草粥をたのしむ。
 新年を迎えたところで、今春は、まず「平和」について考えることからはじめたい。
 二○二四年、今地球社会各処で、戦争が頻発している。そして私達は、人類を揺るがす大戦争が、ほんのちょっとした紛争がきっかけとなって起きてしまった過去の歴史を知っている。
 ここで真剣に「地球の平和」を実現しなければなるまい。新年を迎えての最初の決意である。
 国連を中心とした平和運動について「内なる平和が世界を変える」シーラ・エルワージー氏(平和活動家・著作家)というフレーズがある。実際、第二次大戦後、世界平和実現を目標として、二度と戦争はしないと誓い、その為「心の中に平和の砦を築こう」という有名なフレーズが叫ばれていた。平和実現の為、生命への畏敬の哲学をしっかり学び、実社会の中で平和でスピリチュアルな生き方を、努力して生かす工夫をすることがまず求められるのであろう。
 そこで、このような運動を国連の活動として実践している人達の考えを紹介しよう。
 マハトマ・ガンジーの信奉者、友人のビノーバ・バーベの弟子であったサティシュ・クマール氏(平和活動家・エコロジー思想家)が中心となって活動している考え方である。
 世界的歴史の中で、代表的な運動の多くには、その運動を象徴する三つのキーワードがある。フランス革命では「自由・平等・博愛」、アメリカ独立宣言には「生命・自由・幸福の追求」。これらはまことに大切なキーワードであるが、いずれも人間中心的な考え方である。
 私達は、この考えはギリシャ文化由来のものであることを知っている。この人間の為の文化という考え方で発展してきた結果、現代社会が抱える「平和」を乱す要因が拡大していってしまっていると考える。貧困と格差の拡大、再生産。自然環境破壊がもたらす地球共同体破壊等々である。そこでクマール氏の提唱する運動の三つのキーワードは、ソイル(土)、ソウル(魂)とソサエティ(社会)である。
 「土」はラテン語で「フムス(Humus)」と云い、フムスが語源となって「人間(Human)」と「謙虚(Humility)」という言葉が出来ている。重要であるが常に足下にある実に謙虚な存在である。全ては土からはじまる。そして私達の内なる存在として「魂(Soul )」。更に地球共同体を意識する「社会(Society)」。この三つを大切にする考えを常に持ちつづけようという運動である。
 自調自考生、どう考える。