「自調自考」を考える 第362号

三月、弥生。学校では、この時期「卒業式」、そして「修了式」を迎え、新学年準備に入る。
 旧暦、春分初候雀始巣の時期。春分とは太陽が真東から昇り、真西に沈む日のこと。春の始まり。

 年の内に春は来にけり一年を
  去年とや云はむ今年とや云はむ
『古今和歌集』在原元方

 旧暦の正月より前に訪れた「年内立春」の日の一首。年が明けた後の「新年立春」との割合は、ほぼ半々というが、年末に春が訪れることには、昔から違和感があったようだ。今年は、新暦二月四日が「立春」で十日が「旧暦元日」である。まさに「年内立春」の年である。
 旧正月を祝う沖縄を除き、日本では旧暦を意識することが殆どないが、近年中国や台湾は勿論、韓国、ベトナム、シンガポール、マレーシアでは旧正月は重要な祭日となっているので、日本に「春節休暇」の影響が及んできている。
 十二支の変わり目は、一般的には「春節」と考えられているが、古代からのしきたりでは「立春」と主張する学者も多い。春分の日を中日に七日間を春の彼岸という。

 毎年よ彼岸の入に寒いのは
正岡子規

 古来、日本人は「春さる」「春立つ」といって春の到来を大変大事なこととして歌を詠んでいる。

 うちなびく春立ちぬらしわが門の
  柳の末に鴬鳴きつ
『万葉集』巻十春雑歌

 そして、「春立つ」新しい年を迎え、今年のダボス会議での主要なテーマは「AI(人工知能)」であった。ダボス会議とは、スイス・ジュネーブに本拠を置く非営利財団、世界経済フォーラムが毎年一月に、スイス東部の保養地ダボスで開催する年次総会のこと。この会議は一九七一年に発足し、各国の競争力を指数化し公表してグローバル化に対応した経営環境を推進している。ここで毎年世界を代表する政治家や実業家が一堂に会し、世界経済や環境問題など幅広いテーマで討議して来ている。この会議の影響力は大変強いもので、日本からも首相や経済学者などが参加している。
 「AI」という言葉が生まれたのは一九五六年夏のことである。米国のダートマス大学で約一ヶ月にわたって開かれた会合では、当時のコンピューター科学や心の情報処理の代表的研究者が結集して、心と機械の知的機能について、思考や言語の働きを中心とした議論が交わされた。後に「ダートマス会議」と呼ばれるようになったこの会議の最大の貢献は、コンピューターが単なる数値演算機械ではなく記号を処理する機械であり、したがって記憶、思考、言語などの働きを記号表現モデルによって説明する研究に適していることを当時の先端的研究者達が共有したことにある。会議を主宰したジョン・マッカーシー(コンピューター科学者)が提案した“Artificial Intelligence”(人工知能)という言葉がこの分野の名づけとして定着した。
 もともとAIの働きは、その出力結果の検証が大変難しいことに加え、社会に対しての影響力が極めて大きい。この特質から人間社会へのリスクも大きなものとなるのだが、生成AIの登場によって人間社会に対するリスクは一段と大きく複雑なものとなった。
 従って、AIガバナンスは現代社会の最大重要かつ喫緊の課題となってきている。AIの能力向上のスピードは極めて速く、そのリスク管理には、想像を絶する難しさがあり、単なる管理強化では、重要な開発を阻害するだけになる危険が生ずる。
 今年のダボス会議の議論ではAIについては規制が必要ということでは意見は一致したが、具体論については、当局と企業には大きな差があった。今後はリスク管理を重視する当局と自由な開発を望む企業との間での議論が展開され、結果、人間社会全体に、政治、経済、個人のプライバシー、雇用等々に大きな影響が出てくるであろう。
 ともかくも、我々には、AIのあり方使い方を自分のこととして各自考え、行動する必要が出てくるであろう。
自調自考生、どう考える。