「自調自考」を考える 第363号

 四月、卯月。旧暦清明初候玄鳥至。清明とは、全ての者が清らかで生き生きするころのこと。若葉が萌え、花が咲き、鳥が歌い舞う。玄鳥とは春の使い「燕」のことで「幸せ」が訪れると考えられていた。
 学校の入学式にふさわしい時節。
 幕張中学二九二名、高校五十六名。新しい自調自考生の誕生である。校庭では輝きを象徴して「桜花爛漫」。
 このような豊かで、変化に富んだ四季に恵まれた日本には、独特の「日本文化」が育まれている。
 中東やエジプトなどの地域では、「季節」や「方位」を知る為には「星」の動きを頼りにした。ナイル川の氾濫は星の動きを見て予測され、砂漠での移動は、星を頼りに正確な方位を確認しなければならなかった。
 欧米文化が「星座」や「星占い」を生み出し、それによる「文化」が盛んな原因はここにある。
 日本には、全国共通の星文化は生まれなかった。代わりに「月」を愛でる豊かな文化が生まれた。日本最古の「物語」としての『竹取物語』や、最古の歌集『万葉集』に「月を愛でる日本独特の文化」が表現されている。

 天を詠める
  天の海に雲の波立ち月の船
   星の林に漕ぎ隠る見ゆ
『万葉集』巻七 柿本人麻呂

 月を詠める
  常はさね思はぬものをこの月の
   過ぎ隠らまく惜しき夕かも
『万葉集』巻七 作者不詳

 ところで昨年三月に本校の教育=自調自考=に大変興味を示され、何回も来校され、作品『自分の木の下で』に結実されたノーベル賞作家大江健三郎先生が逝去された。大変なショックを受けたが、今年二月には、直木賞作家で渋幕二十期卒業生の小川哲先輩が来校、講演され、「何度でも自調自考」と述べ「自調自考」の大切なことを話され、大いに元気づけられたところである。
 そこで年度初めに当り「地球温暖化問題」を自調自考してみたい。私達の考え方の基盤となっている「日本文化」に大きな影響を及ぼす変化がこの冬(昨年十二月~今年二月)にあった。
 気象庁の発表では今年は、一八九八年からの平均気温よりも、平年比1.27度高く、二〇二〇年シーズン(平均比1.43度)に次ぐ二番目の暖冬であった。そして気象庁異常気象分析検討会(会長 中村尚東大教授)は高温の原因分析として、「顕著な暖冬でかなり異常な状態といえる」との見解を示し、地球温暖化が個々の異常気象にどれほど影響したかを定量的に評価する「イベント・アトリビューション」手法で分析したところ「地球温暖化してなければ、今冬のような異常高温の発生確率は非常に低いと見積もられる」と発表している。結果「地球温暖化の傾向は明瞭で、日本の今年の春や夏も、多くの地域で高温になる確率が高くなることは間違いない」と説明している。
 国連では地球温暖化でなく、「地球沸騰化」との言葉を使って説明しているが、日本の異常気象の発生は、このままでいると「ニューノーマル」となる。
 すると四季がなくなり、長い冬と夏だけの「二季」となると予想されている。そうならない為に必要な緊急課題は、未だ大多数の人が無用心である「異常気象」に関心を持ってもらうこと。それには、「気象、気候は面白いコト」と感じる人が増えること、そして「気象、気候を愛する人が増えること」が、気象危機回避の第一歩だと考える。
 日本では現在「気象市民会議さっぽろ2020」を皮切りとして「気象市民会議」が年々増えてきているが、「気象変動に関する国際意識調査」(米・Pew Research Center)によると、「自分が生きている間に自分が気象変動による悪影響を受ける心配があるか」という問いに対し、多くの国で「とても心配だ」と回答する割合が増えているなか、日本では逆に8%も低下している。そして最も関心度の低い年代層は十八~二十九才となっている。
 地球温暖化問題に対しては粘り強い意識改革、回避運動の継続がいよいよ必要となると考える。
 自調自考生、どう考える。