七月、文月。旧暦(太陰太陽暦)によれば、大暑、初候、桐始結花。旬の行事である夏越の祓が、多くの神社の境内で行われた(茅の輪くぐり)。そして学校は土用入りのころ、夏休みに入る。
日本の文化はその豊かな自然の恵みを生かして育まれてきた。明治の文豪森鷗外は「花暦」で、五月「十七日ヤグルマ草、姫菖蒲」。六月「十二日百合ノ如キ黄大花」「二十八日天竺牡丹、ビロウド花(ダリアス)」。七月「十二日孔雀草、月見草」と、秋までの庭の花々を述べている。花の名は六十八種類。日本の文化はこうした豊かな自然の恵みを観賞するなかで育成された。鷗外の日記には、大正二年四月「六日…阿部一族等殉死小説を整理す。桃、山吹咲き初む。」長編完成の喜びを明るい花の色に託した。
二〇二四年、一学期終了。地区別保護者懇談会(前期報告書参照)、授業公開研究週間、スポーツフェスティバル、中一、中二校外研修、高一歌舞伎教室、高二オペラ教室、メモリアルコンサート等重要な行事が終了した。
そして初夏、桐が梢に沢山の淡い紫の花を咲かせる時期、学校の夏休みが始まる。
この時期を旧暦では、鷹の雛が飛び方を覚える頃という。鷹の雛ならぬ生徒諸君も充実した夏休みの過ごし方を工夫してほしい。ほぼ毎日、十五時間余。約六週間、六百三十時間。これをどう過ごすかは、その後の学校生活も含めて大きな影響を齎すもので、充分に自覚自重して実りのあるものにしてほしい。その為には「計画」を立て、そして実行する。私の好きな言葉でいえば、「習慣」となる実行である。
「習慣は第二の自然である」(モンテーニュ)、「努力によって得られる習慣だけが善である」(カント)。そして「若いうちは何かになりたいと夢を持つことは素晴らしい。しかし同時にもっと大切なこととしていかに生きるかということがある。日々の行いを選び積み重ねること、その努力こそが良い習慣を身につけさせ、人生の行方を決める」(串田孫一、詩人哲学者、山の随筆が有名)。
夏休み、自調自考生よ、良い習慣を身につけよう。
もう一言。米国でベストセラーになった『長寿と性格』(ハワード・S・フリードマン、レスリー・R・マーティン著)という本には、「長寿」のカギを握る性格は「勤勉性」にあると述べられている。
ところで、米アップル社は今年の「世界開発者会議」で「人工知能(AI)戦略」を発表した。生成AIの「Apple Intelligence(アップルインテリジェンス)」で自社製品の知性をいかに高めるか、その計画を説明し、対話型AI(チャットGPT)を開発した米オープンAI社と提携するとの計画である。ティム・クックCEOは「生成AIと大規模言語モデル(LLM)の最近の発展はアップル製品の利用体験を新たな高みに持っていく強力な機能を提供する。」と述べ、製品の飛躍的知性能力の発展を予想し、実現に取り組むと発表している。
またロボット・コンテスト(ロボコン)全国大会等を主宰され、我々にも馴染み深い東北大吉田和哉教授は「宇宙・ロボット・AI」をテーマとする講演(六月十四日)において「宇宙×ロボット×AIが変革する未来を目指して」という題で、現在の「ムーンショットプロジェクト」(二〇二二年より発足)でAIを活用した月面着陸と月面探査のロボット開発を実現すると述べられた。月面での無人探査、無人活動である。その解説で大変重要なことは、教授は「従来AIは知能の開発に有用であったが、現在までの飛躍的発展で知能だけに止まらず、ロボットのようなものづくり、製作、運転の分野にまで有用である能力を持つに至っている」と述べられたことである。
確かに宇宙のような舞台では、人間は活動が制約されるのでAIの活用は大変意味があるが、もし戦場のような場で人間と同様に「知能と行動」が一緒に活動出来るロボットが出来ると考えると、技術の進歩が大変な局面にまで至っていると考えざるを得ない。通常私達は「科学技術の発展」という時、「研究」は「好奇心から」そして工学は「目的達成から」といわれているが、事態は大変深刻となってきた。OECD(経済協力開発機構)が述べているように私達は「エイジェンシー」(Agency=自分で考え決める・自調自考)を教育の目標とすることが、いよいよ大事になっていると思う。
自調自考生、どう考える。