二〇二五年、令和七年、暦注の干支で乙巳の年となる。
中国古来(紀元前十七世紀)の哲理として伝わる陰陽五行説による十干十二支では、乙は困難があってもなんとか進むことや、しなやかに伸びる草木を表し、巳は蛇のイメージから「再生」と「変化」を意味するとされている。乙巳は「努力を重ね、物事を安定させる」といううれしい年を意味する。こうした占いを「四柱推命」と呼ぶ。
今年は、乙の柔軟性と巳の知性が組合わさった性格の活躍する年となる。楽しみに素晴らしい年にしよう。
明日よりは春菜採まむと標めし野に
昨日も今日も雪はふりつつ
『万葉集』巻八 山部宿禰赤人
古来春菜はワカナともハルナとも読み、春の七種の総稱である。
季節は、小寒、初候、芹乃栄。一月七日に、今年も健康でありますようにと願って、春の七草の入った粥をいただくのが古来日本の習俗であった。
今、未来を決まったものと考えることは受け入れ難い。我々は未来は予測するものでなく実現していくものと考えている。新年の夢は、そこで生き生きとしたものとなる。
ヒトは、地球に誕生し、数百万年繁栄してきた。そしてここ三百年余りは「科学の時代」という時代を生きている。十七世紀活躍したガリレイ(伊天文学者、物理学者、ピサに生まれ科学的方法を確立。近代科学の父)によって確立された「事実を観察し数学的公式によって表現する」方式を利用して私達は未来を予測し行動している。社会科学・自然科学では、神の役割は科学的方式に取って代わられている。そして科学的言説の予言の正確さを求める必要条件として、〝反証可能性〟等が議論されてきたのである。
新しい年では、この未来予測に大きな変化を齎す問題が起きていることを考えてみたい。
昨年の暮れ、世界の科学界に激震が走った。ノーベル物理学賞と化学賞が人工知能=AI(Artificial Intelligence)の開発・利用関係者に与えられたのである。
物理学賞は、コンピューターが自分で学習する深層学習の手法を開発した、AIのゴッドファーザーと呼ばれるジェフリー・ヒントン博士(トロント大)に、そして化学賞は、蛋白質の構造予測技術を開発したデミス・ハサビスCEO(グーグル・ディープマインド社)に授与された。この授賞は、「新しい科学を認めていこうという意思を感じる。AIが様々な科学で使われていくのは間違いない」(松尾豊 東大教授)と考えられ、同時に、「新しい科学」AIに対する懸念を表明したともいわれている。
何年もかかった蛋白質の構造解析を数分で完了させるAIシステム、アルファフォールド2の活用は既に世界190ヶ国に広がっている。ハサビス氏も医療分野(創薬治療等)以外にも新材料開発、気候変動、核融合、数学等幅広い分野で利用されるとの見通しを示している。既に患者のがん細胞の遺伝子変異をAIで解析し、患者一人一人に合った薬を作る技術が構築され成果を上げはじめた。
一方ヒントン博士が指摘しているように「人は人より賢いAIを使いこなせるのだろうか」という懸念がある。「今のAIは科学者の立てた仮説の検証を手助けするツールだが、おそらく十年後にはAI自身が仮説を立てられるようになるだろう」と述べるハサビス氏は、AIには核戦争や感染症パンデミックなどと同等の「人類滅亡」のリスクがあると警鐘を鳴らした声明に参加している。
AIと教育分野にも難問がある。「生成AIは言語と思考をめぐる人間の経験の最も良質な部分を毀損するかもしれない。なんとしてでも聞いてもらいたいことはたいてい語るのが難しいこと、うまく言えないことではないだろうか」(大澤真幸『生成AI時代の言語論』)。AIに頼らずに難しさを自力で乗り越えた先に、「驚き」や「歓び」があり、ヒトはこうして思考を明晰にして成長してきた。
自調自考生、どう考える。