旧暦立冬。次候地始凍。地が凍りはじめるころ。冬の語源は、一説では、「冷ゆ」から来たといわれる。別名冬葉と呼ばれる「ほうれんそう」の季節でもある。
茶の花や
利休が目には
吉野山
山口素堂
秋から初冬にかけて咲く茶の花は、白い五枚の花弁の真中に黄色い蕊が集まる小さな花。わびさびを感じさせる風情は、茶の湯でも好まれた。この時期、『万葉集』巻第十九には、
あしひきの 山の黄葉に雫あひて
散らむ山路を 君が越えまく
この雪の 消残る時に いざ行かな
山橘の 実の照るも見む
大伴宿禰家持
季節の変わりを楽しむ心は、日本文化の真髄の一つだが、「旅を求める心」につながる。「ここには無い何かを求める心」(永田和宏『近代秀歌』岩波新書)である。そしてこの時期、学校では、大切な校外研修が実施された。中一から高二まで、日本文化の発展伝承の跡を辿り各地を巡る旅である。いろいろな形でのこの経験の発表がこの時期の楽しみになる。
ところで、北半球では秋を迎え、国際連合等の組織では、地球規模の会議等が開催され結果発表がはじまる。それ等のなかの一つに、十月初旬からの「ノーベル賞受賞者」の発表がある。
昨年は物理学賞と化学賞で初めて人工知能(AI)に関する研究が受賞し、驚かされた。そして現在は研究を補助する道具として使われているAIが、今や、AIが自らノーベル賞を取れるほどの発見をするのではないかといわれはじめた。昨年の化学賞受賞者デミス・ハサビス氏(米グーグル傘下ディープ・マインド社)は、「AIは十年後には、問題を解くだけでなく自ら仮説を立てることも可能になると想像できる。」と述べ、AIの将来について、人類の科学、研究の営みを根本から覆す能力を持っていると予言している。
もっとも、すでに日本でもAIに科学的発見をさせる取り組みは始まっている。「ノーベル・チューリング・チャレンジ」と呼ばれるプロジェクトである。数学者チューリングが一九五〇年に発案した、「機械が人間の思考を模倣出来るか」を確かめる「チューリングテスト」から名付けられた。
二〇二二年に生成AI「チャットGPT」が登場すると注目度と期待感が一気に高まって、今や、「万単位」の研究者がこれに挑んでいる。
この視点から、今年のノーベル賞受賞を受け止めると、人類の科学技術発展への展望の方向性がより一層明確になるのではと考えている。
今年の物理学賞は、「量子コンピュータ」という次世代の基幹技術となる技術の基礎研究、「量子トンネル効果」などに貢献した米国の三人の物理学者に与えられた。
そして、今年は、まことに嬉しいことに「生理学・医学賞」に坂口志文大阪大特任教授が、「化学賞」に北川進京都大特別教授が輝いた。
これで、日本の自然科学三賞の受賞者は二十七人となった。日本の自然科学研究の高さを世界に示したといえる。授賞理由そしてその成果の素晴らしい展望については既に多く報じられ、充分理解していると思われるのでここに詳細には述べないが、世界に誇れる「人類への貢献」であることは、誠に誇らしい限りである。ここで私が注目したいのは、両先生共に受賞された研究が、あまりにも「独創的」であった故に当初は批判を浴び、それを克服するのに大変な苦労があったということである。
「免疫」という人体を守る働きに、人体を傷つけてしまう過剰な免疫反応を抑える働きをする「制御性T細胞」が存在する証明に、道なき道を切り開いた不屈の精神に感動し、心から敬意を抱く。また、存在を疑問視された無数の穴を持つ新素材「金属有機構造体MOF」を作り出す独創的な手法の開発に心血を注いだ意欲には、人間離れしている力を感じる。
実は、近代科学は大雑把にいえば、問題があるので解決する「使命遂行型」で発達してきたわけではない。「好奇心駆動型」とでもいう「個人の心の力」が主流の研究であった。世俗的なことに関心がなく、常に「謎の研究」に没頭している「ちょっと変わった人」の力。AIが登場してきた「科学の世界」で人間の「心」をどう扱うか。
自調自考生、どう考える。
