「自調自考」を考える 第382号

 五月、皐月。旧暦では立夏、小満。生命が次第に満ち満ちていくころのこと。そして六月、水無月。芒種、夏至。一年で最も日が長く、夜が短いころのこと。これから夏の盛りへと向かう。風も爽やかな五月を送り、日本の自然はいよいよ魅力を増す。
 幕末期、開国早々の日本を訪れた欧米の人達は、この時期の日本の植栽の豊かさ、自然の美しさに驚き、賛美している。日本の文化は、この豊かな自然の変化を楽しんで作り上げられた。

 吾妹子が赤裳ひづちて植ゑし田を
  刈りて収めむ倉無の浜
『万葉集』巻九 柿本朝臣人麻呂

 今の田植えの稲から収穫した米を、しまう蔵のない浜よ、という歌。
 また代表的な花として「藤」が楽しまれている。同じく『万葉集』には、

 藤波の咲き行く見ればほととぎす
  鳴くべき時に近づきにけり
田辺史福麻呂

 三大随筆として著名な『枕草子』では、清少納言は「藤の花は、しなひ長く、色濃く咲きたる、いとめでたし」と。

 学校では、「保護者会」「教育後援会」と会合が続く。新学年始動。新自調自考生を迎え、清新の気に満ちて動き出している。
 そこで新鮮な知識に接し、感動し、活動し始めた学校で、こんなことを提案したい。
 「忘れるためにメモを取る」
 矛盾しているように思えるが、「認知行動工学」(大阪大学大学院、平井啓教授)に照らせば、ミスを防ぎ、効率を上げて合理的解決につながる方策だという。
 「認知行動工学」とは、従来からある「行動経済学」や「社会心理学」「公衆衛生学」「産業科学」の知見を統合し、社会全体の課題解決や健康な人々のパフォーマンス向上への応用に特化した学術領域である。
 もともとはがん患者やその家族の不安を軽減したり、がん検診の受診率を上げたりする認知行動変容を研究してきたが、さらに対象を広げて出来上がってきた学問学術領域であり、最初は大阪大学医学部新入生が実験相手だったようだ。
 新学年、新しい知識に対して、生徒諸君は「覚えるためにメモを取る」だろう。出来るだけ効率的に覚える為に工夫してメモを作ろうとする。でもその結果、膨大な情報量を処理しきれずミスにつながるということが起こる恐れがある。
 ここで知っておいてほしいことは「正常な脳機能を保つには忘れることが重要なのだ」ということである。
 ノートでもスマホでもよいのだが、メモを取る。取ったらそこで忘れ、あとでそれを必ず見返すということを勧めたい。ぜひ実行してみてほしい。これを習慣化することで脳の疲労を軽減し、毎日、新鮮な気持ちで朝を迎えることにつながるだろう。
 その為に「認知行動工学」では重要な時間管理のポイントを示している。それは、一日の時間計画(To Doリスト)を作り、その中に仕事でやるべきこと(生徒にとっての仕事は勉強すること)の他に、「寝る」と「プライベート」の時間を書き込むことである。「寝る」は新学年、新しい知識といったストレスと上手く付き合う上で重要なファクターであり、しっかり寝るという行動変容を促すことにつながる。プライベートをタスクとして時間をとるのは、二十四時間という限られた一日の時間をいかに上手く使うかを考えるようになる為である。
 「認知行動工学」では、これを「ワーク、ライフ、インテグレーション(両者を統合する)」を引き出す為のテクニックだと考えている。
 大切なことは、「自分」がどのようなタイプの人間かが、まず分かることである。学校は性格傾向を理解する為のテストを毎年実施し、その理解を参考にして自分の行動の変容を適切に行い、脳疲労やストレスを軽減して、パフォーマンスを上げることにつなげて欲しいと考えている。
 これからの学校は、超俯瞰で知識の全体像を理解している「人工知能」=Artificial Intelligenceが参入して来る場となる。
 これに対して、人間が出来ること・人間の得意とすることを意識して、学びの場に参画する必要がますます増大していく。
 与えられたものを漫然と理解し身につけるだけでない「自分」=「人間」を理解しておくことがいよいよ必要となろう。
 自調自考生、どう考える。