「自調自考」を考える 第383号

七月、文月。旧暦では、小暑、末候、鷹乃学習。
 季節の変わる時期の18日間を、土用と呼ぶが、なかでも夏の土用は良く知られている。夏の土用入りである。日本人はこうした自然の変化を捉えて「歳時記」として残している。春夏秋冬と新年の五つの季節をそれぞれに季節特有の季語を並べて表現している。日本人の日本の風土現象の全体認識であるとともに、千数百年にわたって日本人が築き上げてきた一つの美的創造物でもあると言えよう。
 西欧の文化は自然を人間の領域から遠ざけ、それを征服し支配することによって人間の用途に従がわせてきた。逆に日本の文化は自然を近づけ、人間世界に引き込むことに注力する。日本の美学は「不完全性」にあるという特徴を持つ。何か言い表せないもの、「欠落」や「不如意」の美学であり、「わび」や「さび」の観念の根底をなすと言われている。(「風土学」オギュスタン・ベルク)
 近・現代文明が、大規模な環境破壊と気候変動を齎し、人類がそれに苦しんでいる状況には、人間中心主義から脱して、全ての生物の健全な在り方やつながりを重視し、自然に対する考え方を変化させる必要があるのではと考えている。そしてヒントは、日本の歳時記にあるのでは。

 逆光の桐さわさわと土用照
佐野青陽人

 夏山の木末の繁に霍公鳥
   鳴き響むなる声の遥けさ
大伴家持
『万葉集』巻八 夏 雑歌

 学校は、中1、中2校外研修、スポーツ・フェスティバル、高一歌舞伎鑑賞教室、高二オペラ鑑賞教室、地区別保護者懇談会(前期報告書参照)等重要な行事を終え、夏休みに入る。
 例年この時期に、弦楽器講座と第二外国語講座の申し込みがされるが、今年は例年との比較で、中国語学習者の数が急減し、その分であろうかスペイン語や韓国語の講座の申し込み者が増加した。どうなっていくのか気になるところである。
 そして本校の国際教育分野に大きく貢献していただいた駐日英国大使ロングボトム閣下が、任期終了で六月に帰国されることとなった。公使時代(2012∼2016)、本学園理事として直接学園にかかわっていただいた方で、これからも本学園の国際教育にいろいろとご指導いただくであろうが、ここで長い間のご指導、ご協力に感謝の意を述べさせていただく。大使在任中、日本と英国は第二の日英同盟といわれる「МUSUBIイニシアティブ」(=文化交流)を中心に、新世代戦闘機共同開発等、密接な日英関係を築き上げるという功績を残された。
 ところで、夏休みは、生徒自身が毎日の生活の過ごし方を充実したものとする工夫が求められる。ほぼ毎日、15時間余り、約六週間、計630時間。これをどう過ごすかによって、その後の学校生活を含めて大変大きな影響を及ぼすものなので、充分自覚し自重して実りのあるものにしてほしい。まさに「自調自考」活動の正念場である。まず「計画」を立て、実行する。私の好きな言葉で云えば、「習慣」にする努力である。
 「習慣は第二の自然である(モンテーニュ・仏思想家モラリスト、随想録が有名)」。「努力によって得られる習慣だけが善である(カント・独哲学者、道徳形而上学・永久平和論が有名)」。「若いうちは何かになりたいと夢を持つことは素晴らしい。しかし同時にもっと大切なこととしていかに生きるかということがある。日々の行いを選び積み重ねること。その努力こそが良い習慣を身に着けさせ、人生の行方を決める(串田孫一・詩人、哲学者、山の随筆が有名)」。「長寿のカギを握る性格は『勤勉性』にあるという(『長寿と性格』ハワード・S・フリードマン)」。これ等を参考にして自覚的な中学高校生の夏休みを工夫してみよう。
 最後に『言語の人類史』(スティーヴン・ミズン)を紹介するので、夏休みを過ごすための参考にしてほしい。二十万年前誕生した我々ホモ・サピエンスは、ヒト属の一種である。淘汰圧力が高い中、知能が生き残りの決め手となり、知能の発達を競う。ネアンデルタール人は槍を作ったが、弓矢はなかった。彼等の言語は抽象語やメタファーがなかったであろう。抽象概念を持ったホモ・サピエンスの言語発展はそれ以降の発展活躍を支える基本的要素であったという。夏休みは身体を鍛えると同時に、「言語」の重要性を求められる読書や論文作成に活かすのはどうだろう。
 自調自考生、どう考える。