5月30日「自調自考」を考える 第329号

 五月、皐月。小満紅花栄う。小満とは、草木も花々も、虫も鳥も日を浴びて輝きいのちが満ち満ちていくときを意味する。田を耕して水を張り、麦の収穫を終えたのもつかの間、すぐに育てた苗を田植えする季節がやって来る。六月水無月には、大阪の住吉大社での
「住吉の御田植」や伊勢の伊雑宮の竹取神事等の「磯部の御神田」が行われ、いずれも国の重要無形民俗文化財に指定されている。

 巣から飛ぶ燕くろし五月晴
『花影』原石鼎

 春過ぎて夏来るらし白妙の
  衣ほしたり天の香具山
『万葉集』巻一 持統天皇

 令和二年、幕張中学高等学校の新学年が始まった。但し今年は四月からでなく五月からとなった。そしてオンライン授業が中心の開始となっている。
 新型コロナウイルス感染症
(COVID–19)の世界的蔓延で登校中止となった故である。
 間もなく登校が開始されるであろうが、その間お互い経験したことのない辛い時間が続く。但し今回の事態は、単に今辛抱すれば元通りになるといったことではないことをはっきりさせておく必要がある。つまり今回のような「社会」を揺るがす規模の感染症はこれ迄も起きたし、これからも必ず何回でも起こると予想出来るからである。そして、こうした感染症によって、我々の今迄の社会のあり方の問題点が浮き彫りになったことで、全員が当事者である変革が実行されなければなるまい。
 民主主義国家の政府のあるべき姿、情報の透明性、地方自治体の判断、実行力、都市部への一極集中、そして医療と感染症対策等々。変革の必要性は情報化がこのように徹底された世界では、各国の対応とその成果が明らかに違って、はっきりしてしまうのでとてもわかり易い。おそらく学校教育のあり方(システムを含めて)も検討改善される必要がある。所謂IT化も一挙に進むものと思われる。
 まず今はネガティブ・ケイパビリティの大切さを認識する必要がある。急いで安易な結論を出そうとしない力、どうにも答えが出ない事態に耐える力のことである。英国詩人ジョン・キーツがシェイクスピアの作品から感得した力と云われているが、まさに詩人の示した「人間の心」の力が必要な事態である。別の言葉で云えば「共感力」のことであるとしている。
 イタリアでも、高校の校長が生徒に母国の作家マンゾーニの『いいなづけ』とボッカチョの『デカメロン』を読むことを薦めた。見えない恐怖や社会が人の心を蝕む様子を描いたこうした古典から校長は生徒に「理性を保て」と呼びかけたのが有名になっている。
 日本にも古典が多くある。二十世紀初頭、我が国を襲ったスペイン風邪の猛威を描く志賀直哉の『流行感冒』。武者小路実篤の『愛と死』。尾崎紅葉の『青葡萄』。感染の長期化によって避けられない災厄と向き合い、死の恐怖と対峙する為の哲学や心の支えが必要と考え、文学に求める人が増えている。ノーベル賞作家カミュの『ペスト』、同じくノーベル賞作家ジョゼ・サラマーゴの『白の闇』も有名。
 この時期、自調自考生の諸君は平静を保ち「自分を強くする」ことに注力しよう。その為の努力で身につく力によって自分が変化・成長することを実感して楽しんでほしい。ニュートンはペストによる一年半の休暇中、彼の三大重要発見、微積分、万有引力、光の法則のヒントを得たと云う(佐藤満彦著『ガリレオの求職活動・ニュートンの家計簿』講談社学術文庫)。
 自調自考生諸君、こうした時こそ本領発揮だ。