「自調自考」を考える 第330号

九月、長月。七十二候によると白露草露白し。夏休み後に朝夕の涼しさがくっきりと際立つ。この時期、学校では学園祭(槐祭)を迎えるのだが、今年はコロナ禍によって延期中である。春のスポーツフェスティバルも延期。大切な区切りの学校行事である故、何かの形で実現したく、生徒諸君と相談し思案中である。
中学・高校生諸君にとって二十一世紀はグローバル化が一層進展し、人はいよいよ多様に移動を増幅させ、更にデジタル化により移動の多様化複雑化が一層深まることを覚悟しなければなるまい。それ故単一の価値観で歴史を見返すことがいよいよ困難となり、出来るだけ大きな座標軸で歴史を捉え、多角的に人類の営みを理解しなければ、未来は見通せないと考えることが重要になってくると思われる。
ギリシャ哲学者アリストテレスは『弁論術』でこう云う。「大きくかけ離れているものの中にさえ、類似を見てとるのが、物事を的確につかむ人の本領なのである」と。つまり、通り一遍の情報があれば充分と考えるなら単純なネット検索で済んでしまうが、本当のことを知りたいと思うなら「いかなる分野でも、その分野で最前線に立っている人にしか見えない情景があるということ。そして、それを正しく伝え、受け止めることによって複雑な未来の変動の予測が出来るようになる」という考えを自分のものにしてほしい。
コロナ禍下の学校の現状はオンライン授業・対面授業と日常の授業も変動し、生徒諸君の発達段階に応じて組み立てられた学校行事も予定通りに実施出来ていない。このような時こそ、生徒諸君は二十一世紀に生きる力を実際に試し、自覚をもって努力して取り組む良きチャンスなのだ。
学校の授業は何を目標にして何を期待して組み立てられているのか、また学校の行事は何の為に実施するのかといったことをはっきり考えて、その目標の実現には何を必要とし、何を自分が実行しなければならないのかをはっきりとさせようではないか。OECD 2030 Educationのレポートにある教育目標「Agency」の実現はこのことを云っていると考える。毎日のことで云えば、先生の云われたことを単にノートに記録することに留まらずに、確実に更に突き詰めてノートを整理整頓し直して作ってみるといったようなことを、今実行してみてはどうだろう。

青海原風波なびき行くさ来さ
障むことなく船は早けむ
渤海国派遣大使を迎えて
万葉集巻二十 大伴宿禰家持

ここで、現在、世界を舞台に日本を代表して活躍中の方からの生徒諸君への呼びかけを紹介しよう。
きっかけは一学期終業式での「イーター(ITER)計画」紹介の話からである。
二十一世紀人間社会の夢の実現を訴え、「イーター計画」=核融合反応を利用したエネルギー供給計画=の実験装置の組み立てがフランスで2020年年7月28日開始された。「太陽を地上に実現」という標語の下、いよいよ2035年完成に向けての計画である。
未来の人類社会の最重要課題の一つであるエネルギー及び環境問題の解決策となる夢の実現に百十数ケ国の協力のもと多くの人々が共同研究に動き出した。一学期の終業式で私が未来の人類社会を担う若者にこの夢の実行を紹介する話をした事に、日本のイーター計画の代表の方(核融合戦略官フランス駐在)からお礼状が届いた。そのお手紙の中に次の一文がある。
「経験のないことに挑戦しやり遂げるには、壮大な想像力(創造力)が不可欠だが、その力は日々の積み重ね、毎日の努力があってこそ生み出される」と。
自調自考生、どう考える。